要約
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本稿の内容は,書籍『温暖化対策の自主的取り組み 日本企業はどう行動したか』(エネルギーフォーラム社,2013.3)の第2章に掲載されています。
「待機電力」とは,消費者が機器を操作(利用)していないのに,知らず知らずのうちに使っている電力のことである.1990年代の終わり頃,こうした待機電力が家庭や国全体に占める電力消費が,意外にも大きいことが世界的な関心となって注目を集めた.日本はこの問題にいち早く対応し,業界の「自主宣言」によって待機電力の削減に積極的に取り組むことで,大幅な削減を実現した.待機電力削減は,日本における業界の自主的取り組みの成功事例といえる.
待機電力削減の技術的な解決策は既知であるにもかかわらず,価格に敏感な市場の構造や,消費者および企業経営者の認識不足などによって実現されていない.このため,省エネルギーひいては温暖化防止の観点から,適切な政策介入が必要とされている.実際に,各国で,企業の自主的取り組み,政府による規制,消費者への情報提供および政府等の優先購入などの様々な施策がとられている.本稿では,待機電力削減を進める日本および諸外国の取り組みなどを通して,日本において,なぜ,迅速かつ大幅な待機電力の削減に成功したのかを考察した.
諸外国と比較すると,日本は最も早い時期に1Wの水準を掲げ,すべての機器でこれを達成した(図1,2).また,個別の製品特定の基準ではなく,製品横断的な目標として1Wを掲げた点も大きな特徴である.「すべての製品で1W」という日本の自主宣言は,目標達成の時期,水準ともに他国に先行するものだった.さらに,規制的措置を必要としなかったという点でも,日本の取り組みは諸外国と大きく異なる.オーストラリア,韓国,EUでは,自主的取り組みから規制的措置への移行が大きな流れであるのに対し,日本では自主宣言が十分に効果的に機能し,それによって政策目標を達成できたため,追加的な政策措置はとられていない.
自主的取り組みは,1)迅速な対応を可能にしたこと,2)製品横断的な対応を可能にしたこと,3)市場の変化に迅速に対応できたこと,などの点で,他の代替的な政策措置よりも優れたアプローチだった.また,日本において自主的取り組みが有効に機能した背景として,業界団体の強い影響力および国内メーカーが大勢を占める市場構造が指摘できる.