アラブ首長国連邦(UAE)のドバイで開催されたCOP28は交渉が難航し、会期を1日延長して、12月13日に閉幕した。パリ協定は各締約国に次期目標を2025年2月までに提出するように義務付けており、COP28では、目標提出に向けた準備の一環として、協定の進捗評価が行われた。交渉が難航したのは、この評価に関する合意文書に、化石燃料の全廃を記載することの是非についてである。
2週間の会期の終盤になると、議長国のUAEは合意の取りまとめを自ら主導した。UAEは産油国である一方、中東諸国の中で最初に「2050年にネットゼロ排出」を掲げた国でもあり、再エネ・水素・CCSに積極的に取り組んでいる。
交渉では、米国、EU、英国、小島嶼国等が「排出削減対策を施さない化石燃料のフェーズアウト(段階的な廃止)」を合意に盛り込むよう求めた。他方、中国・インドなどの新興国とサウジアラビアなどの産油国はこれに強く反発した。UAEは議長国として合意形成を優先した。
最終的に、妥協点として「2050年ネットゼロを実現すべく、2020年代の取組みを加速し、化石燃料からトランジション(転換)」という一文への合意を得た。この合意には、政治的なメッセージの側面と、ネットゼロ排出に関する技術的な側面がある。
政治的には、約30年のCOPの歴史の中で初めて、化石燃料からの転換への合意を得たことが画期的だった。しかも、産油国のUAEで合意したことで、そのメッセージ性が強まった。
ただし、欧米と小島嶼国が求めた「段階的な廃止」が最終的にゼロに至ることを意味するのに対し、「転換」は到達点が曖昧で、インパクトが弱い。新興国や産油国の同意を得るには、こうするしかなかった。
次に技術的な側面に関しては、化石燃料の前に「排出削減対策を施さない」という修飾語が付かなかった点がポイントである。
ネットゼロ排出を実現する際、化石燃料は、①使用量の削減、②CCSによる排出ゼロ化、③大気中から炭素を除去する技術による排出の相殺のいずれかを辿り、その大宗は①となる。
つまり、化石燃料を、②と③で現行規模のまま維持するのではなく、まずは、①で大きく減少させることから、修飾語を付けずに、「化石燃料からの転換」と表現できるのだ。さらに、「2020年代の取組みを加速」と念押しし、①の優先度が高いことを示した。
他方、②と③も含むエネルギーの全体については、「2050年までにエネルギーシステムをネットゼロ排出にする」と掲げたうえで、CCSや除去技術の加速を謳った。①~③の全てを、①が大宗であるという大局を踏まえながら、合意に反映したのである。
注目すべきは、エネルギーに関するこれらの合意事項は全て「世界全体」での努力であって、その中で、各国がどう貢献するかは、「それぞれの国が自国で決定する」と明確に書き込んだことである。化石燃料からの転換などが、自国の取り組みに直結しないように防御線が張られている。
ここにも、新興国・産油国への配慮を見て取れる。エネルギーを巡る国家間の隔たりは、COPの合意だけで解消できるような簡単なものではないのだ。
電力中央研究所 社会経済研究所 上席研究員 上野 貴弘
電気新聞2023年12月26日掲載
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