要約
各地の原子力発電所をめぐっては,運転差止めを求める仮処分の申立てが増加している。通常の判決と異なり,仮処分の決定には既判力が生じないため,裁判所が却下した後も申立てが繰り返されている例があり,事業者の応訴負担が増大している。
そこで,「仮処分の再申立て」をめぐる既存の学説・議論を再整理したのち,原子力発電所の運転差止仮処分を念頭に検討を行った。主な成果は以下の通りである。
1. 原子力発電所の運転差止仮処分は,プロセスのみが本案化し,終局的解決をはかるものとなっていない。そのため,同一発電所に対する申立てが繰り返され,債務者の応訴負担が無視できなくなっている。しかし仮処分の再申立てをめぐる既存の学術文献は,申立てが何度も繰り返されるような事態を想定していない。
2. 仮処分の再申立ては,(1) 被保全権利・保全の必要性・疎明が前回と同一の場合や,(2) 疎明を更新・追加・補強する場合であっても当該疎明資料が前回の申立て時にも提出可能であったときなど,前申立ての経緯などを踏まえた上で,それ自体として却下すべき場合もある。究極的には,債権者側の手続的権利と,訴訟経済や蒸し返し禁止の観点からの債務者側の不利益を比較衡量した上で再申立ての可否が判断されるべきものである。
3. 同一の原子力発電所に対して多数の債権者が個別に仮処分を申し立てられるため,債務者が応訴すべき相手が多数に上っている。訴訟経済的な観点から,なんらかの立法措置が検討されてしかるべきである。団体に差止請求権を付与する環境団体訴訟への移行などが考えられるが,その実現に向けたハードルも高い。
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