要約
EUでは、欧州気候法(規則2021/1119、2021年7月制定)により、温室効果ガスの排出削減に関して、「2040年目標」の設定が義務づけられている。EUにおける「2040年目標」の検討は、2023年に開始され、これまでに、欧州委員会による意見照会や、気候変動に関する欧州科学的助言機関(European Scientific Advisory Board on Climate Change、以下ESABCC)による助言が行われてきた。また、2023年12月13日には、国連気候変動枠組条約(UNFCCC)第28回締約国会議(COP28)において、パリ協定第14条に基づく、第1回グローバルストックテイクに関する決定が採択された。これらを踏まえて、2024年2月6日、欧州委員会は、2040年目標を「1990年比90%減」とすることを提案した。
2040年目標の提案にあたって、欧州委員会は影響評価を実施し、①80%減、②85-90%減、③90-95%減(いずれも1990年比)という3つのオプションを検討した。各オプションの水準はそれぞれ、①2030年目標(1990年比55%減)と2050年気候中立目標の間を直線的な経路とした場合の値(同78%減)、②現行の政策枠組を延長した場合の値(同88%減)、③ESABCCによる助言(同90-95%減)に相当する。影響評価で示された各種の指標によれば、2040年のGHG排出削減の水準は、主として、再生可能エネルギー、炭素回収、工学的除去(直接空気回収・貯留(DACCS)や、CO2回収貯留(CCS)を伴うバイオマス発電(BECCS)など)の導入量が左右している。2040年のGHG排出削減の水準が高いほど、再エネ(特に風力・太陽光)、炭素回収、工学的除去などの技術の導入量が、2031–2040年の間に大きくなる。ただし、2041–2050年の間の導入量は小さくなり、2050年までに導入する総量はいずれのオプションでもほぼ同じである。
今後、EU内で2040年目標に関する政治的な議論が開始され、最終的には、欧州理事会(EU加盟国の首脳会合)での決定が見込まれる(時期は未定)。既にデンマークやブルガリアは「90%減」への支持を公にしており、フランス・ドイツ・スペインなども「野心的な目標」を求めている。ただし、欧州理事会での決定はコンセンサス(全会一致)であり、全てのEU加盟国の同意が必要である。2024年6月に予定されている欧州議会選挙や、昨今EU加盟国で相次いで起こっている、EUの環境や農業に関する規制に反対する農民によるデモなどの影響も含めて、今後の議論の行方が注目される。
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