研究資料

2024.03

直接負荷制御型デマンドレスポンス料金プランに対する家庭用需要家の受容性調査

  • 企業・消費者行動

報告書番号:SE23505

概要

背景

 低炭素社会実現に向けて普及の進む再生可能エネルギーを有効活用しつつ、電力需給の柔軟性を高める手法として、エネルギーの需要側が供給状況に応じて消費パターンを変容させるデマンドレスポンス(DR:Demand Response)を活用した料金プランが注目されている。その中でも、需要家の電気機器を直接制御する代わりに、電気料金割引やインセンティブを提供するDR(本研究では、直接負荷制御型DR料金プランと呼ぶ)は、消費シフト・節電の確実性が高いと言われており、今後の普及が期待されている。しかしながら、直接負荷制御型DR料金プランに対する需要家の受容性に関する知見は少なく、現時点では、どの程度普及しうるのかについて明らかとなっていない。

目的

 本研究では、直接負荷制御型DR料金プランに対する家庭用需要家の受容性を定量的に把握し、今後の普及促進に向けた取組についての示唆を得る。特に、先行研究で十分な知見が得られていない、上げDRへの活用を念頭に置いた電気給湯機器を直接負荷制御する場合の受容性や、DR料金プラン契約に対する非金銭的対価が受容性に与える影響に注目する。

主な成果

 直接負荷制御型DR料金プランの受容性を把握するため、Webアンケート調査において料金プランの選択実験を実施した(図1)。回答者には、各選択問題において、自分にとって最も望ましいと思う料金プランを選択してもらった。本研究では自動制御の対象家電として、電気給湯機器(昼間の上げDR 用)、エアコン、洗濯機、冷蔵庫、電子レンジ・オーブン、掃除機(いずれも夕方の下げDR用)を扱っている。

1. 家庭用需要家のDR料金プラン選択の意思決定モデルの推定

 図2は、選択実験の回答データをもとに、家庭用需要家がDR料金プランの選択において重視している要因を推定した結果である。自動制御の対象家電に対する家庭用需要家の選好度は、掃除機、洗濯機、電気給湯機器、エアコン、冷蔵庫、電子レンジ・オーブンの順で高いことが明らかとなった(図2-a)。洗濯機や掃除機の選好度が高かった理由として、調査設計においてこれらの家電の制御時間帯を17-19 時と設定していたこともあり、この時間帯での利用者が少ないことや、この時間帯に利用していても、別の時間帯へのシフトが可能と判断された可能性が考えられる。エアコンや冷蔵庫の自動制御に対する選好度は、電気給湯機器の自動制御に対する選好度よりも低かったが、これはエアコン、冷蔵庫は制御時間帯の利用割合も高いことから、電気給湯機器の自動制御と比べて生活の快適性が損なわれることを懸念していることなどが考えられる。最後に、電子レンジ・オーブンについては、当該家電が夕食時に利用されることが多く、夕方から別の時間帯へのシフトが難しいことが影響している可能性がある。
 次に自動制御の実施日数に注目すると、4日/月(平日のみ)に対する選好度が最も高く、20日/月(平日のみ)に対する選好度が最も低い結果となった(図2-b)。なお、12日/月(平日のみ)と4日/月(休祝日のみ)の選好度の差は統計的に有意でなく、この2つの実施日数に対する家庭用需要家の選好度は無差別である可能性がうかがえる。また、実施日数が同じ4日/月(平日のみ)と4日/月(休祝日のみ)を比較すると、休祝日の方が低い選好度となっている。この要因として、休祝日は平日と比べて自動制御時間帯の在宅人数が多いため、在宅人数が少ない平日よりも家庭全体での消費パターンのシフトが難しいと判断されたことなどが考えられる。
 非金銭的対価として本研究で設定したメンテナンスサービスに対する選好度は、予想と異なりマイナスであった(図2-c)。回答者への調査内容の説明段階において、当サービスに対する追加料金は発生しないということを明記しなかったため、回答者が当サービスは有料であると判断した可能性もあり、この点を明確にした上で、更なる検証が必要となる。
 最後に、電気代削減効果については予想と整合的な結果が得られており、家庭用需要家が享受できる電気代削減額が大きくなるほど、選好度が高くなることを確認できる。

2. 家庭用需要家のDR料金プランに対する受容性のシミュレーション分析

 図3は、家庭用需要家の仮想的な料金プランに対する受容性を、DR料金プラン選択の意思決定モデルの推定結果を用いて試算した結果である注3)。なお本研究では、「ある仮想的な直接負荷制御型DR料金プランと現状維持(契約中の電気料金プラン)の2つの選択肢がある時、家庭用需要家が前者を選択する確率」を、その仮想的な直接負荷制御型DR料金プランに対する受容性としている。この選択確率が50%を超えると、現状維持(契約中の電気料金プラン)よりも、仮想的に設定されたDR 料金プランの方が受容されやすいことを意味する。
 各契約条件が受容性に与える影響度に注目すると、自動制御の対象家電の違いによる影響度の差は総じて大きい傾向にある。例えば、電気代削減効果が100円/月で、自動制御を平日20日/月で実施するという条件のDR 料金プランを考える時、自動制御の対象を電子レンジ・オーブンとすると、受容性は18%(図3-f)だが、自動制御の対象を掃除機とすると、受容性は50%(図3-a)まで上昇する。
 自動制御の実施日数については、その影響度が総じて小さいことがうかがえる。例えば、電気給湯機器の自動制御を伴う電気代削減効果が100円/月のDR料金プラン(図3-e)において、自動制御の実施日数が平日4 日/月から平日20 日/月になったとしても、受容性は7%pt しか低下しない。
 最後に、電気代削減効果の影響度は、達成可能な電気代削減額の大きさに依存する。例えば、電気給湯機器の自動制御を平日4日/月行うDR料金プラン(図3-eにおいて、電気代削減効果が0円/月から1,000円/月となる場合、受容性が39%pt高まるが、100円/月となる場合には、受容性は4%pt 程度しか上昇しない。

3. 本研究から得られる示唆

 直接負荷制御型DRの普及促進に向けて、本研究から得られる示唆を3つあげておく。第1に、直接負荷制御型DR料金プランの受容性に最も影響を与える契約条件は、電気代削減効果を除くと、自動制御の対象家電であることから、直接負荷制御型DR料金プランの検討においては、自動制御の対象家電の設定が重要となる。例えば、自動制御に対する受容性が比較的高い電気給湯機器の上げDRや、エアコンの下げDRを活用したDR料金プランが期待できる。
 第2に、自動制御の実施日数の増加による受容性の減少度は、4日/月(平日のみ)と20日/月(平日のみ)でも選択確率の違いは4%~8%程度であり、自動制御の対象家電や電気代削減効果の影響度と比べて小さいことに鑑みると、DR料金プランを設計する際、受容性の低下を恐れて自動制御の実施日数を過度に抑制する必要はないと推察される。
 第3に、DR料金プランを提供する事業者が実際にどの程度の電気代削減効果を設定するかは、事業の収益性を勘案しながら慎重に設定する必要があるものの、この削減額を大きく設定できる場合は、それによって他の契約条件よりも受容性を大きく向上させることを期待できる。

今後の展開

 本研究では自動制御の対象となる家電は、DR料金プランごとに1 つとしていたが、よりDR効果を高めるためには、複数の家電を同時に自動制御することに対する受容性を把握することも有益であろう。

キーワード

デマンドレスポンス、直接負荷制御、料金プラン、家庭用需要家、離散選択実験

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