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2024.05.21

米欧中の次期削減目標の行方―年内提出の可能性視野 米中協調と対立が交錯―

  • 気候変動

電気新聞グローバルアイ

 各国はパリ協定の下での次期削減目標(NDC)を2025年2月までに提出することが求められており、その際、目標年を2035年とすることが奨励されている。ここで「奨励」とは義務ではないことを含意する。

 EUの政策執行機関である欧州委員会は今年2月、「2040年に1990年比で90%減」を提案した。2040年目標としたのは、EU法の規定による。今後、6月の欧州議会選挙の結果を踏まえつつ、域内調整を行い、合意後には、2040年目標から2035年の排出水準を算出する。これらの数字がEUのNDCの基礎となる。

 日本への影響がより大きいのは、米国の動向だ。米国は以前から、次期NDCの目標年を2035年とすることを明言してきた。

 キーパーソンは、3月に気候外交の任務を引き継いだジョン・ポデスタ大統領上級補佐官である。ポデスタ氏はメディアに対して、他国に影響を及ぼせるかを見極めつつ、年内には提出可能とコメントしている。

 「年内」が11月5日の大統領選挙の前後どちらかははっきりしないが、選挙前の提出はあり得そうだ。手がかりとなるのは、今春の環境保護庁の動きである。同庁は自動車及び石炭火力発電所への温室効果ガス排出規制を、それぞれ3月と4月に最終決定した。

 その際、2030年までの規制強度は、昨年の提案時より緩めつつ、それ以降は強度を維持した。具体的には、自動車は、新車販売に占める電気自動車とプラグインハイブリッド車の比率が2032年に7割弱となるような基準値とし、石炭火力は2032年以降は9割回収のCCSを前提とする基準値とした。

 つまり、2030年以降については、強力な気候変動対策を求める若年層や左派層に訴求すべく、踏み込んだ対応をしているのだ。この延長線上で、2035年目標も選挙前に発表し、65~70%減といった背伸びをした数字となっても不思議ではない。

 また、ポデスタ氏は「他国に影響を及ぼす」とも発言している。念頭にあるのは中国だろう。実は、ポデスタ氏はオバマ政権でも、大統領府で気候変動を担当し、中国との交渉にあたった。その結果、2014年11月にオバマ大統領が北京を訪問した際に、米中首脳が世界に先駆けて、NDCの草案を同時発表するに至った。

 米国と中国は5月8日と9日に気候変動に関する会合を持ち、その終了時に次期NDCに関する技術的・政策的な意見交換を行うと表明した。しかし、その直後の14日、バイデン大統領は中国からの電気自動車や太陽光パネルなどの輸入に大幅な追加関税を課すと発表し、中国側が強く反発した。果たして、次期NDCを巡る米中協調が可能なのか、微妙な状況である。

 他方、中国の視点に立つと、2030年の炭素排出ピークも、2060年のカーボンニュートラルも、習近平国家主席が自ら発表しており、次期NDCもそうなろう。その場合、2025年2月までの首脳級の行事、たとえば、9月下旬の国連総会や、11月中旬のG20サミットが発表の場の候補となりうる。

 中国も次期NDCは2035年目標と表明しているが、2030年の排出ピークに続くものなので、総量削減目標になると見込まれる。これを2060年のカーボンニュートラルと整合させるには、2020年比で2~3割減といった削減幅が必要となろう。

電気新聞2024年5月21日掲載
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