米国のトランプ次期大統領は国際エネルギー戦略の理念として、「エネルギードミナンス」を掲げる。ドミナンスは優位性や支配といった意味であり、他国よりもエネルギー面で有利な立場にあることを指す。
トランプ氏は前回政権時にも、この概念をエネルギー政策の主軸に据えていた。パリ協定脱退を表明した直後の2017年6月末に演説し、「エネルギー独立に加え、エネルギードミナンスを目指す」と宣言したのだ。
当時の米国はエネルギーの純輸入国だったが、天然ガスや石油の輸出が拡大しており、まもなく純輸出国になろうとしていた。純輸入を脱して独立し、さらに純輸出へと転じて優位に立つという状況の変化を捉えたのである。実際、2019年には純輸出国となった。
トランプ氏は化石燃料の輸出国としての優位性を国内では雇用促進に、対外的には友好国や同盟国のエネ安保に活かすと主張した。後者の背景には、友好国や同盟国に対し、敵対国からの輸入を減らし、米国からの輸入を増やすよう暗に迫る意味合いもあった。たとえば、トランプ氏は2018年以降、欧州のエネ安保を損なうとして、ロシアとドイツをつなぐ天然ガスパイプライン「ノルドストリーム2」に反対していた。このパイプラインはロシアによるウクライナ侵略後の2022年9月に何者かによって爆破された。
では、トランプ政権第2期のエネルギードミナンス戦略はどのようなものになるだろうか。
トランプ氏は当選後、ホワイトハウスに国家エネルギー会議を新設すると発表し、その際に「エネルギードミナンスは、インフレを抑制し、中国とのAI競争に勝利し、世界中の戦争を終わらせるための米国の外交力を高める。過激な左派が米国のエネルギーを損なったせいで、同盟国は敵対国からのエネルギー購入を強いられて傷つき、敵対国の利益は戦争とテロの資金源となった。エネルギードミナンスによって、我々は友好国(欧州諸国を含む)にエネルギーを販売できるようになり、世界はより安全な場所となる」と謳った。
第1期からバージョンアップしたのは、エネルギー消費国である中国への対抗を含む概念へと発展した点である。化石燃料の増産で国内のエネルギーコストを下げて、AIという電力多消費な先端技術の競争で中国に勝利するとの戦略である。
さらにエネ安保を越えて「戦争を終わらせる」と安全保障そのものに踏み込んだ。現下の戦争や紛争の背後に、敵対国のエネルギー輸出があると見ているのだろう。
これに対し、友好国や同盟国の一部は、全輸入品に10~20%の追加関税を課すとのトランプ氏の脅しを受け、米国産LNGの輸入拡大が貿易不均衡を抑える手段になると捉えている。たとえば、欧州委員会のフォンデアライエン委員長は当選直後のトランプ氏との電話会談でLNGに触れた。韓国も同様の考えのようだ。ただ、LNG輸入の拡大だけではトランプ氏の不満は収まらないだろう。また、現時点で日本は何も表明していない。
他方、米国との対立を深める中国は、前回トランプ政権時に米国との関税戦争に陥り、一時的に米国からのLNG輸入がゼロになった。今回も同様となる可能性がある。
電気新聞2024年12月17日掲載
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