社経研DP

2025.01.24

EUの気候変動政策の見通し―2024年の政治過程と第2期フォンデアライエン委員会―

  • 気候変動

SERC Discussion Paper 24004

要約

 欧州連合(EU)にとって、2024年は5年に1度の「政治イヤー」であった。6月の欧州議会選挙に始まり、欧州委員会のフォンデアライエン委員長の再任、次期欧州委員の任命を経て、12月1日に第2期フォンデアライエン委員会が発足した。

 欧州議会選挙の最大のポイントは「右派の台頭」である。中道3会派(EPP, S&D, Renew Europe)が主流であることに変わりはないが、EPP(中道右派)と右派勢力でも過半数に達する。中道3会派の協力によってフォンデアライエン委員長の再任が決まったものの、特に第2会派のS&D(中道左派)はEPPが右派勢力との協力を深めることを強く警戒し、次期欧州委員の任命は一筋縄ではいかなかった。気候変動政策に関する個別の法案について、欧州議会において右派が多数派を形成する場合は、政策の強度を弱める方向に作用するだろう。

 2024年の一連の政治過程では、欧州理事会の「2024-2029年の戦略課題」、フォンデアライエン委員長の「2024-2029年の政治指針」、欧州委員会の「欧州の競争力の将来」報告書(通称ドラギ・レポート)などの政策文書も公表された。第2期フォンデアライエン委員会において、最も重要なキーワードは「競争力」であり、気候変動政策もそのための要素の1つとして位置づけられている。目玉となるのは「クリーン産業ディール」であり、発足後100日以内に詳細が提示される。ただし、第2期フォンデアライエン委員会では「規制の簡素化」も重視しており、新規の立法よりも、実施や投資に力点が置かれている。

 また「技術中立」なアプローチにも言及しており、例えば、2035年以降の新車の販売をゼロ排出車に限るとした規則について、合成燃料を含めるような形に改正する可能性がある。原子力の活用についても、多少積極的な姿勢に転じるかもしれない。

免責事項

本ディスカッションペーパー中、意見にかかる部分は筆者のものであり、電力中央研究所その他の機関の見解を示すものではない。

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