社経研DP

2025.01.31

米国トランプ政権によるエネルギー・環境政策の見直しの行方(2025年1月30日版)

  • エネルギー政策
  • 気候変動

SERC Discussion Paper 24005

要約

 2025年1月20日に発足した共和党のトランプ政権は、民主党のバイデン政権が進めたエネルギー・環境政策、特に気候変動対策を大幅に見直す。本稿では、具体的にどのような変化が起こり得るのかを考察する。

 バイデン政権は国内において、既存法の権限を用いて火力発電所や新車販売に排出規制を課し、さらにインフレ抑制法(IRA)を通じて脱炭素化への減税措置等を成立させた。トランプ政権は、化石燃料を中心とする国産のエネルギー資源の開発を加速させるべく、バイデン政権の排出規制を撤回し、より緩い代替規制に置き換えると予想される。実際、トランプ大統領は就任日の大統領令で、各省庁に対し、規制の撤回・改定を進めるように指示し、さらにエネルギーに関する国家緊急事態を宣言して、緊急時に行使できる権限でエネルギー資源の開発を促進するようにも指示した。他方、IRAの見直し・撤回については、共和党内で減税措置の全面撤回を懸念する声があり、部分的な見直し・撤回に留まる可能性がある。ただし、電気自動車を中心とするクリーン自動車の購入に対する減税措置は見直し・撤回の可能性が高い。

 対外的には、バイデン大統領はパリ協定に復帰し、2030年に2005年比で50~52%減、2035年に61~66%減との削減目標を定めたが、トランプ大統領は就任日の大統領令でパリ協定からの再脱退を表明した。さらに、今後、国連気候変動枠組条約(UNFCCC)からも脱退する可能性が残る。また、バイデン政権が2024年1月に液化天然ガス(LNG)輸出の新規認可を一時停止したのに対し、「エネルギードミナンス」をエネルギー外交の主軸に据えるトランプ大統領は、就任日の大統領令で新規認可申請の審査を速やかに再開するようにエネルギー長官に指示した。

 総じて、トランプ政権はバイデン政権の脱炭素化を中心とする政策を改め、国産化石燃料の増産を重視し、さらにはその輸出拡大によって外交的影響力の強化を図る方針である。IRAのうち見直し・撤回の対象とならない部分や、一部の州政府・ビッグテック企業の取り組みによる温室効果ガスの排出削減は続くものの、バイデン政権が掲げた削減目標には到達せず、2050年ネットゼロ排出と現実の乖離が広がると予想される。

※本ディスカッションペーパーは、「米国トランプ次期政権によるエネルギー・環境政策の見直しの行方」(SERC Discussion Paper 24003)に対して、その後の動向を反映する目的で、主に以下の加筆を行ったものである。
・財務長官の情報(P.9)
・就任日(2025年1月20日)の大統領令で示された方針(P.12, P.21, P.22, P.23, P.24, P.25, P.26, P.27, P.28, P.33, P.34, P.37)

免責事項

本ディスカッションペーパー中、意見にかかる部分は筆者のものであり、電力中央研究所その他の機関の見解を示すものではない。

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