社経研DP
2025.02.20
英国における電力市場制度の見直し(Review of Electricity Market Arrangements, REMA)の検討過程
- 電気事業制度
要約
英国政府は、2022年から、脱炭素化目標の達成と安定供給の確保を費用効果的に行うため、電力市場制度の見直し(Review of Electricity Market Arrangements, REMA)を進めてきた。REMAの最終的な結論は、2025年半ばに公表される予定だが、電力システム改革の検証結果を踏まえて検討される今後の日本の電力市場に関する議論に資するため、本稿では、2024年12月に公表された第2回のコンサルテーションの結果に至るまでの検討過程を振り返り、その意義などを評価した。
REMAでは、これまでに2回にわたるコンサルテーションを通じて、卸電力市場の制度設計や、脱炭素電源への投資の促進、供給力確保のあり方など、様々な検証分野について課題が整理され、改革案の検討がなされてきた。利害関係者から寄せられた意見を踏まえつつ、英国政府は、金額に見合う価値や、投資家の信頼、実現可能性などの評価基準に従い、今後、検討を深めていく改革案を絞り込んでいる。その結果、当初、改革案として提示されていたノーダル制や、セントラル・ディスパッチ方式(系統運用者が入札価格に基づき電源の運用の最適化を図る市場運営)への移行などは、採用されないこととなった。いずれも、不確実性が増すことによって投資家の信頼を損ないかねず、電力分野の脱炭素化の期限(2035年)までの実現が困難なことが主な理由となっている。
REMAにおける検討には限界や課題もあるが、今後の日本の電力市場の制度設計の議論においても参考となる点がある。改革案の検討において、市場メカニズムの活用を継続するとしながらも、脱炭素電源への投資の促進が急務となる中で、費用対効果のみならず、制度の安定的な運用や、定められた期限内での目標達成を重視する視点は、同様の課題に直面するわが国でも必要と考えられる。また、地域別の価格シグナルのあり方について、ゾーン制の市場への移行とともに、地域ごとに設定されている送配電料金の見直しによる改善策を検討していることにみられるように、市場機能の向上のみにこだわらず、電力システム全体の目的を達成する選択肢を幅広に検討する点も参考になる。
免責事項
本ディスカッションペーパー中、意見にかかる部分は筆者のものであり、電力中央研究所その他の機関の見解を示すものではない。