トランプ大統領は1月20日に就任すると、大統領令に次々と署名し、バイデン政権のエネルギー環境政策を大幅に転換した。トランプ2・0の4年間はまだ始まったばかりで、何が起こるかは予想がつかない。しかし、トランプ1・0との3つの違いが見えつつある。
第一の違いは、温室効果ガスの「危険認定」の再考である。トランプ大統領は就任日の大統領令でこれを指示した。
危険認定とは、大気浄化法という法律の下で、温室効果ガス排出が公衆に危険をもたらすと政府が認定するものである。オバマ政権期の2009年12月に環境保護庁(EPA)が認定し、この下で自動車や火力発電所への規制が実施されてきた。
2009年の危険認定は、気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の報告書などの科学的知見に基づいており、それを見直すことは、見直しの方法にもよるが、気候科学への挑戦となる。
他方、米国では、保守派を中心に人間活動が気候変動を引き起こしているという知見への懐疑論が根強く存在し、認定撤回を求める声が以前からあった。実際、トランプ1・0では、一部保守派がEPAに対し、撤回するように要求したが、当時のEPAは拒否した。
だが、トランプ2・0では動きが違った。トランプ大統領は初日に、EPA長官に「危険認定の合法性と継続的な適用可能性についての提言」を30日以内に取りまとめるよう指示した。トランプ1・0では取られなかった極端な手段に初日から踏み込んだのだ。
報道によれば、EPA長官は認定見直しを提言したようだ。ただ、提言を受けた大統領府がどう判断するかはまだ明らかではない。仮に撤回となれば訴訟になり、もし認定の撤回が合法との最高裁判決が下されれば、将来、民主党政権になっても、自動車や火力発電所を規制することが困難になる。政権交代で元通りとはならない、不可逆的な変化となりうる。
第二の違いは、国家エネルギー緊急事態宣言である。トランプ大統領は就任日に、エネルギー生産が不十分であることは、米国経済や安全保障上の「異例かつ重大な脅威」であるとして緊急事態を宣言した。これはトランプ1・0では用いられなかった手法である。
ただ、具体的に何をするのかは明確ではない。大統領令は各省庁に緊急事態時の法的権限を特定し、エネルギー増産のために行使すべしと指示する一方、具体的な権限をほぼ指定しなかった。
注目されるのは「連邦動力法」の緊急事態権限がある。トランプ1・0では石炭火力と原子力を維持すべく、同法の権限で供給命令を発することが検討された模様だが、実際には発動されなかった。今回は電力需要拡大を見据えて、要否を検討するものと思われる。
第三に、国際的には、パリ協定脱退に加え、3月に開催されたIPCC総会に代表団を派遣しなかった。政府職員の出張見直しの一環で、IPCC脱退ではない。ただ、トランプ1・0では見られなかった動きであり、今後、OPなどにも広がる可能性がある。
共和党の中では、ネットゼロ排出を推進した国際エネルギー機関(IEA)への不満が高まっており、IEAへの関与も見直されるかもしれない。
電気新聞2025年3月11日掲載
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