概要
背景
米国では近年、データセンター等の大規模負荷により電力需要が増大している。この傾向は、今後も続くことが見込まれている。米国北東部の地域送電機関であるPJM Interconnection LLC (PJM)のエリアは、米国内でもデータセンターの立地が進んでおり、大きな電力需要がある状況となっている。一方、送電系統の設備増強の必要があるといった理由から、このような大規模負荷を送電系統に接続する際の待ち時間が長期に及ぶ傾向にあり、早期の接続を求めるデータセンター等の需要側のニーズに合致しないという問題も生じている。
大規模負荷を早期に送電系統に接続するための方策として、併設負荷(co-located load)という構成が提唱されている。これは、発電所と送電系統の接続点の背後に負荷を併設し、併設された発電機から電力の供給を受けるというものである。その一つとして、保護リレー等の設備を設置することで、併設された負荷が送電系統からのサービスを受けないようにする「送電サービスを受けない併設負荷」という構成がある。この構成に対しては、①発電機が負荷に電力を供給する分、系統に供給する電力が減少するが、それにより問題が生じた場合の系統増強費用は誰が負担するのか、②物理的に系統と接続され、系統と同期している併設負荷は、結局は各種の送電サービスを系統から受けているのではないか、といった課題が指摘されている。
目的
併設負荷の導入を巡る制度上の課題を探るため、PJM における送電サービスを受けない併設負荷の取扱いに関する以下の点の調査を行い、論点を整理する。
① 取扱いに関する2021年以降のルール化の動きとそれが失敗した背景、その結果を受けた2024年時点の対応。
② 送電サービスを受けない併設負荷の取扱いが最初に問題となった、サスケハナ原子力発電所とキュムラスデータセンターの事案の検討。
③ 取扱いについてのルール化の失敗と、サスケハナ原子力発電所の事案を受け、送電網の所有者と発電事業者が連邦のエネルギー規制当局の権限を使って自らの主張に沿ったルール化を図ろうとした動き。
主な成果
調査の結果、以下の結果が得られた。
① PJMでは、多くの発電事業者が併設負荷の設置を検討する中、2021年11月の時点でその取扱いに関する既存ルールの解釈としてのガイダンスが取りまとめられた。併設負荷の取扱いをPJMのルールであるオープンアクセス送電タリフ(OATT)に組み込むための検討が、2022年1月からPJMの委員会において進められてきた。しかし、送電網の所有者と発電事業者の立場の対立から、2023年10月に検討は失敗に終わった。これを受けたPJM は、2024年4月に「送電サービスを受けない併設負荷」の構成を求める者が多いことを踏まえ、併設負荷の取扱いについての既存ルールの解釈を改めてガイダンスの形で示した。
② サスケハナ原子力発電所は、併設するキュムラスデータセンターへの電力供給を併設負荷の形で行うべく、2020年の計画発表以降、準備を進めてきた。2021年に開始したPJMとの必要性検討の中でも「送電サービスを受けない」ことを志向している旨は示されていたが、2024年6月の申請では、発電機の背後に設置される併設負荷は送電系統から容量やエネルギーを得ることはないという点が明示された。これを受け、発電事業者、送電網の所有者の双方から、多くの意見が提出されたが、連邦のエネルギー規制当局であるFederal Energy Regulatory Commission (FERC)は、本申請は「標準的な取り決めとは異なる取り決めは、当該案件に特有な必要性があることを示さなければならない」という要件を満たしていないという形式的判断の下、申請を退けたため、併設負荷の取扱いについての具体的内容は示されなかった。
③ 上記の結果を踏まえ、発電事業者と送電網の所有者の双方が、自らの主張に沿った併設負荷の取扱いを実現するためのOATTの見直しをFERCの場を使って実施しようとした。FERCは、送電網の所有者からの申請は退ける一方、発電事業者からの申請に対しては、負荷の併設に関する条件や料金についての明確で一貫性のある規定がないとして、その是正を求める手続きを開始した。
今後の展開
米国の場合、併設負荷に対する取扱いは、州が規制権限を持つ小売の分野にも関係している。実際、米国北東部のメリーランド州やバージニア州では、併設負荷の取扱いに関する問題が発生し、それに対する検討が進められている。連邦の動きとともに、このような州の動きについてもフォローアップを行うことを通じ、日本における併設負荷を巡るルールに関する小売も含めた課題の洗い出しを行う。