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2025.10.28

中国の2035年排出総量削減目標―ピーク時比7~10%減 温度目標達成は困難に―

  • 気候変動

電気新聞グローバルアイ

 9月24日、中国の習近平国家主席は、国連のグテーレス事務総長およびCOP30議長国ブラジルのルラ大統領が共催した気候サミットでビデオ演説し、2035年の排出目標を発表した。パリ協定は各国に、NDCと呼ばれる国別目標を5年ごとに提出するよう求めており、今年は2035年目標を提出することになっている。

 今回、中国は「経済全体の温室効果ガス(GHG)のネット排出を2035年までにピーク時よりも、7~10%削減し、さらに高い削減率を目指す」との目標を掲げた。この意味合いを解説しよう。

 まず指摘すべきは「総量削減目標」に転換したことである。これまで中国は「2030年までにGDPあたりの二酸化炭素排出量を2005年比で65%以上削減し、同年までに二酸化炭素の総排出量の増加を止める」との目標を掲げていた。裏を返せば、2030年までは排出増加の余地を残していたということだ。先進国は京都議定書の頃から総量削減目標を掲げていたが、中国もこの目標に切り替えた。

 細かく見ると、他にも変化がある。たとえば、2030年目標は二酸化炭素だけを扱う一方、今回の2035年目標ではGHG全体が対象となった。加えて、2030年のGDPあたりの削減目標は森林吸収分を差し引かない「グロス」の値であったが、2035年目標は吸収分を差し引く「ネット」の値となった。

 やや曖昧なのが「ピーク時」がいつを指すのかである。二酸化炭素に限れば前述の2030年ピークの目標があるが、GHGのネット排出はいつがピークかがはっきりしない。2030年より前倒しとなる可能性も指摘されている。

 こう整理したうえで問うべきは「7~10%減」という数字がパリ協定の温度目標、すなわち「産業革命以前と比べて、2℃または1.5℃以内の上昇に抑える」ことと整合的かどうかである。

 習近平国家主席は2020年に「2060年カーボンニュートラル(CN)」を掲げたが、その際、清華大学の研究チームによる定量分析が注目を集めた。その内容を見ると、2060年CNと整合的で1.5℃目標にも近い将来シナリオでは、2035年のGHG排出水準が2020年比で約27%減となっており、今回の2035年目標はこれに遠く及ばない。さらに、2℃目標に近いシナリオでも、2035年の排出量は2025~2030年頃のピーク時比で約14%減となっており、これにも数ポイント届かない。

 世界最大の排出国である中国のNDCが温度目標と整合的ではなく、第2位の排出国である米国がパリ協定から再脱退することを踏まえると、もはや1.5℃目標の達成は不可能に近く、2℃目標も危うくなってきたと考えられる。

 執筆時点で中国のNDCは発表段階に留まり、正式な文書としては未提出である。11月10日に開幕するCOP30に間に合わせるものと見込まれるが、各国は提出時にNDCが温度目標にどのように貢献するかを説明する義務を負っており、中国政府がこの点をどう説明するかが注目される。

 習近平国家主席は7~10%目標に加えて、2035年までに風力発電と太陽光発電の総設備容量を36億キロワットに拡大するとの目標も掲げた。これは2020年の6倍以上であり、相当に踏み込んでいる。この目標を達成すれば、排出削減率が10%を超える可能性が見えてくる。

電気新聞2025年10月28日掲載
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