EUは今年から、炭素国境調整メカニズム(略称CBAM)を本格実施する。CBAMは、輸入品の製造時の排出量に課金する関税的な措置である。EU域内の製造事業者は排出量取引制度の下で炭素コストを負うが、CBAMは輸入品にも同等のコストを課し、域内品と輸入品の炭素コスト差を埋めることを狙う。
しかし、今のところ、埋め合わせは完全ではない。というのも、輸入課金の対象は主に鉄鋼やアルミニウムといった素材であるが、これらを加工して部品や完成品として輸入すれば、課金対象から外れるためである。抜け漏れを防ぐには、対象品目を材料として用いる川下製品にも輸入課金を適用する必要がある。
そこで、EUの行政機関である欧州委員会は、昨年12月17日に、鉄とアルミを使用する100品目余りを、2028年からCBAM課金の対象とすることを提案した。自動車、産業機械、電気機器、医療機器といった分野の部品が指定されており、一部の分野では完成品も指定されている。
この提案が成立するかは、立法府(理事会および欧州議会)での今後の審議次第であるが、もしこのまま成立すれば、日本への影響は大きい。日本はサプライチェーンの裾野が広く、川下に広がれば、影響が増幅するためだ。2024年の貿易統計をみると、EUによる従来品目の輸入額は全輸入額の4%強である一方、追加品目の輸入額はそれよりも小さい約2.5%に留まる。ところが、日本から見ると、EUへの全輸出額に対する従来品目の割合は3%弱に過ぎないが、追加品目は約5%と大きくなる。
追加品目を具体的に見ていこう。日本からEUへの年間の総輸出額は約10兆円で、追加品目はその5%分の約5千億円であるが、このうち、自動車用の変速機の輸出額が圧倒的に大きく、3千億円弱を占める。自動車関連では他にも、輸出額が大きい順に、排ガス分析装置、エンジン用の各種のポンプ、貨物自動車、サスペンション、車輪、ディーゼルエンジンが指定されており、合計で約9百億円となっている。
なお、EUへの最大の輸出品は乗用車であり、年間輸出額は約2兆円であるが、今回の追加品目には含まれていない。
自動車関連以外で日本の輸出額が大きいのは、インダクタ、物流拠点などで用いる荷役・搬送機械、ベルトコンベヤ、クレーン・掘削機の部品、一部の医療機器である。
日本の電気事業も、CBAMと全く無関係ではない。製造工程で使用する電気の発電時の排出量(間接排出量という)は今のところ、鉄とアルミでは課金対象外だが、他の素材では課金対象であり、どの排出係数を用いるかが論点となる。
欧州委員会は、12月に公表した実施規則で、国際エネルギー機関(IEA)が公表する国別の平均係数をデフォルトとしつつ、特定電源との電力購入契約(PPA)を結ぶ場合、発電量と消費量を1時間単位で一致させることを条件に、当該電源の排出係数を用いることを認めた。欧州委員会は2027年に鉄・アルミの間接排出量への課金を提案する見込みだが、課金対象となれば、今回の追加品目も同様となり、EUの条件に合う安定的な脱炭素電源がCBAMの負担回避には有利になる。
電気新聞2026年1月13日掲載
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