社経研DP
2026.02
米国トランプ政権によるエネルギー・環境政策の見直し(2026年2月5日時点)
- エネルギー政策
- 気候変動
要約
2025年1月20日に発足した共和党の第2次トランプ政権は、民主党のバイデン政権が進めたエネルギー・環境政策、特に気候変動対策を大幅に見直してきた。本稿では、政権発足後の1年間で具体的にどのような変化が起きたのかを体系的に整理する。
国内政策では、バイデン政権は既存法の権限を用いて火力発電所や新車販売に排出規制を課し、さらにインフレ抑制法(IRA)を通じて脱炭素化への減税措置等を成立させた。トランプ政権は、化石燃料を中心とする国産のエネルギー資源の開発を加速させるべく、バイデン政権の排出規制の撤回手続きを進めつつ、規制の前提となる温室効果ガスの危険性認定の撤回も提案した。他方、IRAは、2025年7月に成立した「1つの大きく美しい法」で見直され、電気自動車への減税措置を早期終了し、再エネ電力新設への減税も適用期間を大幅に縮小することになった。これに対し、原子力発電・炭素利用回収貯留(CCUS)・クリーン燃料(バイオ燃料)への減税は維持または拡大・延長となった。さらに、トランプ大統領は就任日に、国家エネルギー緊急事態を宣言し、各省庁に対して緊急時の権限を特定し、国産エネルギーや重要鉱物の生産拡大を図るよう命じた。
対外的には、バイデン大統領はパリ協定に復帰し、2030年に2005年比で50~52%減、2035年に61~66%減との削減目標を定めたが、トランプ大統領は就任日の大統領令でパリ協定からの再脱退を表明した。さらに、2026年1月には国連気候変動枠組条約(UNFCCC)からの脱退を表明した。ただし、脱退が何を意味するか、不明確な点が残っている。また、バイデン政権が2024年1月に液化天然ガス(LNG)輸出の新規認可を一時停止したのに対し、「エネルギードミナンス」をエネルギー外交の主軸に据えるトランプ大統領は、就任日の大統領令で新規認可申請の審査を速やかに再開するようにエネルギー長官に指示し、実際に再開した。EUや日本との二国間の「ディール」においても、米国からのLNG輸出拡大が謳われた。国家安全保障戦略においても、経済安全保障の柱の1つとして、エネルギードミナンスが位置付けられた。
総じて、トランプ政権はバイデン政権の脱炭素化を中心とする政策を改め、国産化石燃料の増産を重視し、さらにはその輸出拡大によって外交的影響力の強化を図る方針である。IRAのうち見直し・撤回の対象とならない部分、一部の州政府の政策、ビッグテック企業の脱炭素技術(原子力発電を含む)への投資などによる温室効果ガスの排出削減は続くものの、バイデン政権が掲げた削減目標の達成からは程遠く、2050年ネットゼロ排出と現実の乖離が広がると予想される。
免責事項
本ディスカッションペーパーは広く意見やコメントを得るために公表するもので、意見にかかる部分は筆者のものであり、電力中央研究所または社会経済研究所の見解を示すものではない。
※本ディスカッションペーパーは、「米国トランプ政権によるエネルギー・環境政策の見直しの行方(2025年9月28日版)」(SERC Discussion Paper 25002)に対して、その後の動向を加筆したものである。