電気新聞ゼミナール

2019.09.18

欧州でフレキシビリティを取引するプラットフォームの現状と課題は何か?

  • 電気事業制度
  • エネルギー政策

電気新聞ゼミナール(191)

 欧州やわが国では、再生可能エネ、電力貯蔵、DRを含む分散型資源(DER)の配電系統への接続申請が増加している。これらDERの連系に配電事業者(DSO)が応じることで、配電系統の設備投資が増加し、長期的には系統利用料金の上昇が生じ得る。設備増強を回避するには、系統の運用者からの指令や価格の提示により、発電や需要を調整できるDERの能力(フレキシビリティ)をDSOが確保し、再給電指令を実施するなどして、混雑を解消していくことが効果的と考えられている。その際に、市場取引のような効率的で透明性のある方策が求められるが、実際にどのように取引できるのかは検証の必要がある。
 現在、欧州各国で、そうしたフレキシビリティの取引に関する実証プロジェクトが行われている。その中で他国よりも先んじて、2019年から商業ベースに移行した、英国Piclo社のプラットフォームを介した取引の仕組みを紹介する。

【不定期に取引が行われるフレキシビリティのプラットフォーム】

 Piclo社のプラットフォームを利用した実証試験は2015年に開始された。実証に参画したDSOは、混雑管理を必要とする地域をCMZ(Constraint Managed Zone)として設定し、フレキシビリティの商品として、「計画的な混雑解消」(表参照)を取引する可能性を検証した。その結果を踏まえ、2019年からPiclo Flexと呼ばれるプラットフォームにおいて、フレキシビリティの商業的な取引が開始された。その際、表に示す3つの新たなフレキシビリティの商品が追加された。ただし、CMZ毎にDSOが必要とする商品は異なる。それぞれの必要容量は、実際に活用する数カ月前までにPiclo Flexに提示され、DSOが必要量を確保すれば募集は終了する。次にフレキシビリティの確保が必要とされるまで、そのCMZでの募集はなく、定期的な取引は実施されない。そして、確保されたフレキシビリティの提供者には、実運用の数週間~数時間前に調整の指令がDSOから送られる。
 フレキシビリティの提供者は、入札時に設定された提供期間において、その商品を提供可能な状態としておく確保料と、実際に提供した際のエネルギーに対する利用料を受け取ることができる。

【当面の課題は存在の周知と取引の定着】

 Piclo Flexは、今後の実用に耐え得るプラットフォームとして創設されており、提供者が増加し、取引量が一定水準に達すれば、DSOが必要なフレキシビリティを妥当な価格で確保することが可能となる。例えば、オークションで競争的な価格を決めることができ、将来的には、確保期間の短縮や、確保のタイミングを実運用に近づけるなどの工夫により、フレキシビリティの安定的な確保と、効率的な価格の実現も可能である。
 その目標に向けて、フレキシビリティの取引の存在を潜在的な提供者に周知させ、取引を定着させる必要がある。現状は、支払う価格の目安を事前に設定して、取引の可視性を高めることで、提供者を集めようとするDSOも存在する。今後は、プラットフォームに参加する提供者の信頼をどのように勝ち得ていくかが成功の鍵を握るだろう。

電力中央研究所 社会経済研究所 エネルギーシステム分析領域 主任研究員
古澤 健/ふるさわ けん
2007年入所。専門は電力系統工学。博士(工学)。

電力中央研究所 社会経済研究所 事業制度・経済分析領域リーダー 副研究参事
服部 徹/はっとり とおる
1996年入所。専門は公益事業論。博士(経営学)。

電気新聞2019年9月18日掲載
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