【拡大する自治体の電力事業】
各地域で人口減少が進行する中、これらの自治体では住民生活に不可欠な交通やエネルギー等のインフラ設備の維持が課題となっている。特に、人口減少が激しい地域においては、代表的な公営事業である水道や公共交通は、従来の事業形態での存続が難しくなっており、民間への譲渡を含めた、経営の改革が進められている。
公営事業の多くは、民間活力を利用しながら、供給の効率化を図ることが事業改革の基本路線となっているのに対し、自治体の電力事業は、近年、むしろ事業規模が拡大する傾向にある。自治体の電力事業が他の公営事業と大きく異なる点は、公共的な性格を持つ送配電部門の運営を民間が担っている一方で、自治体の電力事業は競争分野である発電と小売に特化している点にある。
【FITと地域創生が自治体電力事業の拡大を後押し】
自治体が実施する発電事業は、これまで、長期卸供給契約の中で、安定した収入を確保してきた。これに加えて、固定価格買取制度(FIT)によって、太陽光発電への参入が増加し、既存の公営水力の一部もFIT対象となったために、収入が大きく増加したことが、近年の自治体発電事業の拡大につながっている。しかし、公営電気事業は、長期卸供給契約の終了後、競争市場下における事業運営が求められ、とりわけ、FIT対象電源は、買取期間終了後に、大幅な収入減に直面することになる。このような状況から、総務省では、公営の発電事業は、地域の特性を活かした再生可能エネの普及促進や地産地消の観点から、自治体が担う役割が存在することは認めるものの、基本的には民営化・民間譲渡を検討すべき事業と位置づけている。
一方、小売事業に参入する自治体新電力も増加している。第5次エネルギー基本計画(2018年)で掲げられた、再生可能エネによる分散型エネルギーシステムの構築は、自治体や地域の企業が主体となって事業を進めることにより、地域活性化につながることが期待されている。このような中で「エネルギーの地産地消」による地方創生を目的とした国の支援制度が整備されており、これが自治体新電力の増加を促している。
【地域創生には、電力供給の総合的な視点が必要】
このように自治体の電力事業は、「発電・小売」において拡大傾向にあるが、一方で、公共インフラとして重要視すべき「人口減少地域において、地域の電力事業全体をどのように維持していくか」という視点は希薄である。また、自治体の電力事業については、公的部門が電力事業を実施する必要性を改めて検討するとともに、民間との役割分担を整理し、経常的な財政支援に依存しない事業を構築する必要がある。その上で、社会全体として、以下のような、大局的な見地からの課題克服を志向していくべきである。
人口減少下で、現状の電力インフラをそのまま維持していくことは、費用負担上も困難であり、効率的でもない。配電の事業方式や料金制度の再構築は、電気事業にとって避けられない課題である。自治体の電力事業は「発電・小売」に限定されるため、それらの収益性に注目されることは多いが、地域の生活・産業インフラ維持という大きな問題を解決するためには、配電のあり方も含めた電力供給の総合的な視点が求められる。つまり、現時点で配電線を保有する一般送配電事業者との協調・協業が不可欠であるといえる。
人口減少は速度を上げながら進行する。送配電事業者にとっても、人口減少地域のインフラ維持が本格的に経営を圧迫する前に、自治体電力との連携も視野に入れて、様々な問題解決策を模索するべきである。
自治体における分散型エネルギーシステムの構築は、配電事業におけるオフグリッド化や運営委託等の「人口減少地域におけるインフラ維持」という課題解決をもたらす事業モデルを生み出す可能性がある。エネルギーシステムの変革を地域創生につなげるためには、地域における電力事業のあり方をバリュー・チェーン全体の観点から検討し、送配電事業者と自治体電力が「WIN-WIN」の関係を構築できるかどうかが一つの鍵となる。
電力中央研究所 社会経済研究所 事業制度・経済分析領域 主任研究員
田口 裕史/たぐち ひろし
2008年入所。専門は地域経済学。
電気新聞2019年7月3日掲載
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