電気新聞ゼミナール

2019.05.08

2050年にCO2排出量の80%減を達成するためには何が必要か?

  • エネルギー政策
  • 気候変動

電気新聞ゼミナール(180)

 2019年4月のパリ協定長期成長戦略懇談会による提言では、2050年までの温室効果ガスの80%削減に向け、CCUS(二酸化炭素の回収・利用・貯留)等の新技術の活用が示されている。2050年の目標達成のため、実際にどのようなエネルギー需給を構成し、その下でどの技術をどの程度用いるべきであろうか。本稿では、当所が分析した2050年にエネルギー起源CO2排出量の2013年度比80%削減を達成する電力需給の姿と、その際の課題を示す。

【省エネの深掘りは不可欠】

 分析に際し、経済成長率は、2030年までを長期エネルギー需給見通しの想定と同じ年率1.7%、2050年までを同0.5%とそれぞれ想定した。加えて、実質GDPあたりの最終エネルギー消費原単位の改善(省エネ)が、足元の20年間(1996~2015年)と同程度と想定した場合、2050年の排出量80%減は達成されない。そこで省エネの深掘りが不可欠と判断し、元の想定の約2倍となる年率2.7%で省エネが進むとした。この時、2050年の電力需要は1.1兆kWh、CO2排出量は非電力部門で1.8億t-CO2(2013年度比74%減)、電力部門で6,500万t-CO2(同88%減)となった。

【原子力は約2,900万kW必要】

 このCO2排出量を維持する条件の下、2050年の電源構成を検討した。再生可能エネの出力制御をせず、再生可能エネが最大規模で導入された場合、ゼロエミッション電源比率は84%(うち原子力発電比率は18%:2,200億kWh)となった(図)。この達成のためには、蓄電池の大量導入や電力系統の増強が必要となる。さらに前述の原子力の発電電力量を得るには、86.7%という高い設備利用率を想定しても、2,900万kWの設備容量が必要となる。この達成には、稼働する原子力発電所が全て60年運転可能であるとした場合、現在再稼働している発電所と、新規制基準の下での設置許可申請済の発電所だけでは足りず、未申請の発電所に加え、計画段階の発電所のうち700万kW程度の新増設がなければ達成できない。

【原子力新増設が無い場合は相応の負担も】

 設置許可申請済の既設炉のみで排出量80%減を達成するとした場合、その選択肢の一つとしてCCUSの実施が挙げられる。この時、国内では3,000万t-CO2にのぼる大規模な回収や利用・貯留が求められることになる。仮に産業界が大規模なCCUSの実施を要求される場合、そのコスト負担が重荷となり、我が国の産業の国際競争力に影響が及ぶ可能性もある。

【達成に向けた選択は急務】

 本稿の分析では、蓄電池を活用しつつ再生可能エネの最大規模での導入を前提としているため、例えばCCUSの実施にあたり、水素とCO2からメタンを合成する技術であるメタネーションを大規模に利用する場合には、水素の輸入、もしくは水素製造のためのゼロエミッション電源の上積みが必要となる。こうした対策を実施できないとすると、原子力の新増設は不可避である。2050年を射程とし、投資の確保や国民合意の形成などを含め、その選択を決断する時間的猶予は長くない。

電力中央研究所 社会経済研究所 事業制度・経済分析領域 主任研究員
浜潟 純大 /はまがた すみお
2007年入所。専門はマクロ経済・エネルギー需要分析

電気新聞2019年5月8日掲載
*電気新聞の記事・写真・図表類の無断転載は禁止されています。

20190508.jpg

Back to index

TOP