電気新聞ゼミナール

2018.10.03

欧州における卸電力市場のゾーン変更にはどのような影響があるか?

  • 電気事業制度

電気新聞ゼミナール(165)

 わが国に先んじて、再生可能エネの導入の促進を進めてきたドイツでは、南北の重潮流による送電過負荷解消費用が課題となっている。その低減策の1つとして、最近実施されたのが、ドイツ―オーストリア(以降、独―墺)で一つだった卸電力市場のゾーンの分割である。以下、このゾーン分割に関する議論の動向を紹介する。

【ゾーンの統一による競争促進の効果】

 欧州では、もともと国ごとにゾーンが形成されていたが、国際連系線を活用して、ゾーン間の値差を縮小する狙いの下に、市場統合が進められてきた。特にゾーンの統一による市場統合は、市場の流動性の向上や市場支配力の緩和とともに、欧州大での競争を促進するものと期待された。ドイツとオーストリアも、もともと別のゾーンであったが、2002年に独―墺のゾーンとして統一され、両国間の連系線容量は市場取引では無限大とみなされた。その影響もあり、独―墺の取引電力の最大値は年々増加し、17年には、ドイツの最大需要の12%、オーストリアの最大需要の86%にあたる9.5GWとなった。

【ゾーン統一による過負荷がもたらす課題】

 しかしながら、統一後のゾーンではゾーン内の送電過負荷が効率的に解消できないという課題が生じうる。近年のドイツ北部における再生可能エネの増加と、ドイツ国内の南北送電線建設の遅延により発生したドイツの南北潮流が、隣国への計画外潮流を発生させ、例えば、チェコ等の系統運用者は、それが原因で自国の送電過負荷解消費用が増加していると主張するなどして問題となった。
 そうした中、欧州のエネルギー規制者協力機関(ACER)は、欧州の系統運用者協力機関(ENTSO―E)と共同で卸電力市場のゾーンに関するレポートを作成し、欧州規制(容量割当と過負荷解消ガイドライン)の下、卸電力市場のゾーンの効率性を評価した結果、独―墺のゾーン分割が提案された。この分割をめぐって、ドイツの専門家が、市場支配力が高まることや、ゾーン分割後の価格差による送電線建設インセンティブが見込めないことを主な理由に懸念を表明した。また、市場運営者や系統運用者の試算により、ゾーン価格が約4ユーロ/MWh高くなるとされたオーストリアの規制当局も当初、反対意見を表明していた。
 しかしながら、オーストリア以外の周辺国の規制当局は分割を認めていたこともあり、オーストリアの規制当局も最終的には分割を認め、18年10月1日から独―墺のゾーンは分割されることとなり、前日市場での連系線の利用可能容量は最大で4.9GWとなった。

【独―墺のゾーン分割に伴う課題】

 一般に、ゾーンの分割はゾーン別の需給に応じた価格差をもたらすが、その効果は当該ゾーンのみならず、隣接する別の国のゾーンの価格も変化させる可能性がある。独ー墺のゾーン分割でも、従前の北部からの重潮流を絞るゾーン価格となることから、ベルギー等のドイツの北西側のゾーン価格が安くなり、ハンガリー等のオーストリアの南東側のゾーン価格が高くなるといった波及効果の可能性がある。
 また、ゾーン分割で潮流が変化する結果として、異なる送電線で送電過負荷の解消が必要となる可能性もある。実際、オーストリアの系統運用者(APG)は、再給電のための送電過負荷解消の容量確保を追加的に行うことを迫られ、18/19の冬期に1GW、19/20の冬期に1.5GWを確保することになった。
 さらに、系統運用者が、需給調整力をこれらのゾーンを跨いで調達・運用している場合、ゾーン分割を考慮した需給調整力への連系線容量の割当方式を、新たに検討する必要がある。独墺両国の間でも、16年からすでに、一部の需給調整力に関して、協調した運用を実施しており、こうした課題に直面すると思われる。  
 他にも、各ゾーンで供給する発電事業者が限定されることで、市場支配力が高まる可能性がある。こうした一連の影響を評価するためには、各市場が一定程度成熟した上で、前日市場への影響のみならず、新たに生じる送電過負荷解消の費用、需給調整市場への影響の得失評価なども必要となる。

電力中央研究所 社会経済研究所 エネルギーシステム分析領域 主任研究員
古澤 健/ふるさわ けん
2007年入所。専門は電力系統工学。博士(工学)

電気新聞2018年10月3日掲載
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