米連邦エネルギー規制委員会(FERC)は、1月8日に委員5名の全員一致で、エネルギー省(DOE)が提案した、電力システムの頑健性(レジリエンス)を考慮した卸電力料金見直しの手続を打ち切るとともに、頑健性に関するFERCの取組の必要性を調査する新たな手続を開始する決定を下した。これまでの経緯を踏まえつつ、決定の意味と今後の展開を考察する。
【安定電源の維持を求めるDOE提案】
昨年9月29日のDOE提案は、FERC管轄下の地域電力機関(RTO)や独立系統運用者(ISO)が運営する卸電力市場において、90日分以上の燃料をサイト内に備蓄できる燃料供給の安定した電源、具体的には石炭火力や原子力が頑健性に寄与している分の対価として、適正報酬を含む全てのコストの回収を認めるようにRTOやISOに指示することをFERCに求めるものであった。
【レアケースとしてのFERCへの介入】
後述するように、料金見直しの手続は、独立の規制当局であるFERCの専権事項である。今回の提案は、その例外規定であるDOE組織法403条を根拠としている。この規定は、DOE創設の際に規制と政策の一貫性確保のために盛り込まれたが、40年のDOEの歴史上、数回しか発動されていない。
【指示の根拠としての公正妥当な料金】
DOEが求めた指示は、連邦動力法(FPA)205条・206条に基づく。
205条は、FERC管轄下の卸電気料金は公正妥当であることを要求している。この意味では、FERCの料金規制権限は現在も撤廃されていない。ただしFERCは、コストベースの料金こそが公正妥当であるとしていたかつての考え方を改め、卸電力自由化の前後から、市場が競争的と判断できれば、そこでの価格も公正妥当であると解している。
206条は、公正妥当でない料金の是正命令権をFERCに与えている。DOEの提案はこの権限の行使を求めるものだが、そのためには、現状の料金が公正妥当ではないことと、是正後の料金が公正妥当なものであることの双方をFERCが立証する必要があると解されている。
【現料金が公正妥当ではないとの証明なし】
本決定は、DOEの提案や手続により得られた記録からは、RTOやISOの卸電力市場で決まる価格が公正妥当ではないとする証拠も、石炭火力や原子力に対する料金が公正妥当であるとする証拠も示されておらず、206条に基づく権限行使はできないとして、手続を打ち切った。
DOEは、石炭火力や原子力が頑健性に寄与している分の対価を受け取っていないのは公正妥当ではないと提案の中で主張した。しかしFERCは、頑健性に寄与している石炭火力や原子力以外の電源を事実上排除していることを疑問視し、提案を退けた。一部委員は、石炭火力や原子力が閉鎖に追い込まれていることへの暫定的な対応の必要性を指摘したが、決定自体はトランプ大統領が指名した4名を含む5名全員の一致した判断によるものであった。また、別の複数の委員から、市場で決まる電源ミックスを歪めることへの疑問が示された。
【新たな手続と今後の動き】
一方、RTO・ISOによる頑健性に関する評価を整理し、FERCとしてさらなる対応が必要かを検討する新たな手続が開始されることになった。この手続では、頑健性に対する共通理解を得るためにFERCが提案した頑健性の定義に対する意見や自らの地域における頑健性の評価などを3月9日までに堤出することをRTOやISOに求めている。
DOEは、新たな手続の開始を歓迎する一方、頑健性の確保には燃料の多様性が重要であるとして、石炭火力や原子力の閉鎖が頑健性に影響を与えるおそれがある場合は、DOEの持つ権限(FPA202条が規定する、災害等の緊急時におけるDOE長官の命令権等)により対応する用意があるとしている。
系統の頑健性とその中での石炭火力や原子力といったベースロード電源の位置づけを巡る議論は今後も続くことになるが、そこでは市場メカニズムを前提とする規制と政策との間の一貫性の問題が引き続き問われることになる。今後の米政府の対応が注目される。
電力中央研究所 社会経済研究所 上席研究員
丸山 真弘/まるやま まさひろ
1990年入所 専門は電気事業法制度論