【2050年までに太陽光・風力のコストは半減?】
長期的なエネルギー需給構造のあり方を検討する際、再生可能エネのコスト予測は不可欠である。
将来の太陽光発電(PV)と風力発電の資本費及び発電コストを推計した国内外の文献を調査し、記載されている推計値の比較を行ったところ、PVや陸上風力の資本費(設備費に工事費などを含めた設備容量あたり単価)の2050年時点の推計値は、2016年の実績値の半額以下であった(表)。
しかし、この結果を無批判に信じることは適切とはいえない。以下に示すように、コスト推計の手法上の課題と、電力システム全体への影響に十分留意する必要がある。
【学習曲線によるコスト推計の課題】
将来の再生可能エネコスト推計の際、最も広く用いられている手法は「学習曲線」である。学習曲線は、過去の生産量とコストの関係を示した上で、それが今後も継続すると仮定して将来コストを推計する。この手法では、想定どおりの生産性向上が生じない場合や、急激な材料費の変動などがあった場合には、大きな誤差が生ずる。
例えば、2000年代の米国では、鉄鋼価格の上昇やドル安により、風力タービンの資本費が増加した。つまり、この期間の現象に基づく予測では、生産量を増やすほど、将来のコストが増加することになる。
したがって、推計値と実際のコストを定期的に比較し、将来のコスト予測を機動的に見直すことが重要である。
推計値と実際のコストの比較には、現状のコストに関する詳細な情報が必要である。米国エネルギー省は、80万件以上のPVのコストを、設置場所・日時・設備容量の情報と併せて公開している。しかし、日本のFIT電源は、運転費用年報によってコスト情報を収集しているものの、PVの場合、年報提出率は4割弱程度に留まる上に、情報は公開されていない。情報公開を徹底すれば、設置場所等の条件に依存するコスト分布の特性を示すことができ、推計値と実際のコストの差異と原因が明らかになる。
【電力システム全体を考慮したコスト評価を】
発電コスト評価では、発電所の設計・建設・運用・廃止に係る全てのコストを、生涯発電量で除した「均等化発電単価(LCOE)」を用いることが主流である。
しかし、LCOEでは、電力需要に応じた出力変化が困難なPVなどの自然変動電源を、既存の火力電源と等価で比較してしまうという問題がある。LCOEはあくまでプラント単体のコスト評価であり、自然変動電源が大量導入された際に、電力システム全体へ与える影響を考慮できていないことによる。
そこで、LCOEに加え、①供給力の過不足対策である供給能力維持費用、②予測困難な出力変動に備えた需給調整費用、③系統増強や延長・電力損失などに関する系統対策費用などをも考慮した「システムコスト」を評価に用いることが提唱されている。例えば英国では、再生可能エネの今後の普及を想定し、システムコストを反映した政策の実施を目指している。わが国でも、システムコストの一部として系統安定化費用が試算されているが、①―③全てを含めた政策への反映は行われていない。わが国では、コスト低下によって、再生可能エネの大量導入が予想されるため、今後の長期エネルギー戦略検討において、電力システム全体への影響を考慮した評価が重要である。
電力中央研究所 社会経済研究所 エネルギーシステム分析領域 特別契約研究員
尾羽 秀晃/おばね ひであき
2017年入所。専門は太陽光発電、再生可能エネルギー政策。
電気新聞2017年11月15日掲載
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