社経研DP

2022.12.28

供給予備力の算定に必要な持続的需要変動の試算 -非ガウス型状態空間モデルを用いた推定方法の提案-

  • エネルギー需要
  • 経済・社会

SERC Discussion Paper 22010

要約

 電力の安定供給のためには、供給エリア全体で十分な予備力の確保と、需給バランスの維持が必須である。これまで、電気事業者が電力の安定供給を維持するため、長期計画段階において、確保すべき必要供給予備力は、偶発的需給変動に対応するもの(最大3日平均電力(H3)の7%相当)と、持続的需要変動に対応するもの(同1~3%)との合計とされてきた。持続的需要変動は景気変動等による需要変動(季節変動以外の循環変動)であり、それに対する予備力は容量市場における目標調達量を算定する諸元の一部として、同市場の需要曲線や約定価格に影響を及ぼす。持続的需要変動を推定するためには、気温補正済み最大3日平均電力(H3)の趨勢(トレンド)と季節変動以外の循環変動を各月の実績値から抽出する必要がある。
 電力広域的運営推進機関(2020)では、気温補正済み最大3日平均電力(H3)の趨勢(トレンド)を回帰直線で推定する場合、推定期間が異なると、回帰直線の傾きが大きく変化するため、持続的需要変動の評価が不安定となる等の課題が提起されている。こうした課題への対応として、電力広域的運営推進機関では、統計数理研究所が開発した(ガウス型)状態空間モデルに基づく季節調整法(DECOMP法)を用いた持続的需要変動の推定方法について検討が進められている。
 DECOMP法を用いて持続的需要変動を頑健的に推定するためには、リーマンショックや東日本大震災等による影響を異常値として取り除く必要がある。従来、DECOMP法では、異常が生じたと考えられる時点に、ダミー変数を適用し、統計的に処理するが、異常値かどうか判断することが難しい場合には、分析者の判断によって、恣意的に処理されるおそれがある。
 そこで本研究では、異常値による影響を自動的に処理できるように、DECOMP法で用いられている(ガウス型)状態空間モデルを拡張した非ガウス型状態空間モデルを用いて、電力広域的運営推進機関が実施したDECOMP法による持続的需要変動の推定結果との比較を行った。その結果、リーマンショックや東日本大震災を含む期間(1996年4月~2022年3月)では、最大変動率が2.8%となり、DECOMP法による推定結果より0.5ポイント程度大きく推定された。また、震災後期間(2012年4月~2022年3月)における持続的需要変動の推定結果は、DECOMP法による結果と同程度の2.5%であった。DECOMP法と非ガウス型状態空間モデルでは、異常値処理の方法が異なるものの、最大変動率は2.3~2.8%程度となり、暫定的に1%とされていた従来の持続的需要変動に対応した供給予備率よりも大きく推定された。

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