社経研DP

2023.07.07

EU ETSにおける排出枠の市場取引の実態

  • 気候変動
  • 企業・消費者行動

要約

 欧州の排出量取引制度(EU ETS)は、2005年の制度開始以来、長く価格が低迷してきたが、第4フェーズ(2021~30年)開始後は一転して歴史的な高騰を経験した。価格高騰の背景として様々な複合的要因が指摘される中、ETSの対象ではない主体による取引も一因とされ、欧州委員会は、安全で効率的な取引環境を確保する追加的措置の必要性を検討するため、欧州証券市場監督局(ESMA)に市場における排出量取引の実態調査を依頼した。本資料では、ESMAの最終報告書および関連する市場データの分析に基づき、EU ETSにおける排出枠(EUA)の市場取引の実態を確認し、日本で今年度から開始される排出量取引制度(GX-ETS)において市場を整備する上での課題を考える。
 EU ETSには、オークションを通じて有償のEUAを参加者に分配する一次市場と、オークションの落札者が獲得したEUA、および無償割当によって事業者に分配されたEUAを事業者間で流通させる二次市場がある。一次市場は参加者も少なく、上位10者が全体の取引量の9割を占める集中度の高い市場である。これに対し、二次市場ではスポットのほか先物やオプションなど様々な商品があり、多くの参加者が活発に取引を行っている。
 EU ETSの市場は、EUAの取得を義務付けられた事業者(コンプライアンス事業者)のほか、様々な主体が参加できる。遵守目的以外の市場参加は、顧客であるコンプライアンス事業者の代理でEUAを調達し、先物商品等を提供する金融仲介のほか、投資ファンドなどが、商品としての炭素への投資目的で取引に参加している。コンプライアンス事業者は、EUA価格の高騰や、EUAの調達そのものができないリスクを避け、規制の遵守コストを早期に確定させる目的で、ヘッジ取引を活用する場合が多い。コンプライアンス事業者がリスクヘッジを行う上で、そのリスクを引き受けるトレーダーや投資ファンドの存在は不可欠であり、これらの参加者は、市場流動性を高める上で重要な役割を果たしている。
 多様な参加者の存在を、市場の流動性を高め、価格シグナルを発する上で有意義と考えるか、投機的行動を誘発し、価格の不安定要素となると考えるか、明確な結論は得られていない。炭素市場の監視と分析を続け、脱炭素社会への移行(GX)に向けた炭素市場の適切な機能を維持させる必要がある。

免責事項

本ディスカッションペーパー中、意見にかかる部分は筆者のものであり、電力中央研究所その他の機関の見解を示すものではない。

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