社経研DP
2015.01.22
ネガワットの費用便益評価に関する一試算―自律的節電スキームによるピーク火力代替の可能性―
- 電気事業制度
要約
東日本大震災以降の電源構成の変化(原子力発電の停止、老朽火力発電の稼働等)や、再生可能エネルギーの大量導入を踏まえ、ピーク抑制・電力の安定供給に寄与するための需要側における需給状況の改善策として、デマンドレスポンス(DR)が注目されている。我が国のスマートコミュニティ事業などでも家庭や業務用ビル等を対象にしたデマンドレスポンスの実証試験が盛んに行われており、家庭を対象にしたものでは既に5,000軒を超える実証結果が得られつつある。これらの試験では需要の削減量等には大きな注目が寄せられるが、それらの節電の結果が電力系統システムに及ぼす効果等を考察した研究は少ない。
本稿では、2020年時点の我が国の民生部門・自動車部門におけるピーク電力需要削減可能量と、需要削減に伴う供給側での回避費用(=老朽石油火力電源の代替)を大まかに見積もり、同部門を対象にしたネガワット事業によるに供給コスト削減額を試算した。総額としてはおおよそ年間500億円から1,000億円の規模の事業となる。また、需要削減の不確実性について感度分析したところ、不確実性が高い場合にはコスト削減効果が大きく減る傾向があることが明らかとなった。
経済性が成立しにくい小規模な需要を抑制する仕組みとして、著者らは、DRと比べて、通信手段や計測・制御内容を簡素化する「自律的節電スキーム」を提案した。同スキームでは、DRアグリゲータとの契約によらず、需要家機器がでんき予報等の情報をトリガーとして自律的に節電モードに入ることで系統ピーク抑制に貢献する。全機器に通信ユニット等何らかの追加コストがかかると考えられるが、機器の耐用年数を10年とすると、一機あたり10年間でかけられるブレークイーブンコストは数千円程度であることが分かった。