要約
2011年3月11日に発生した東日本大震災は、多くの地域に甚大な被害をもたらした。電力需給についても、東京・東北電力管内の供給力が大幅に減少しており、緊急節電対策の重要性が指摘されている。そこで本稿では、オフィスや店舗など業務部門で利用されている照明の電力消費に着目し、政策検討の上で重要となる視点を整理した。
業務部門の照明を一時的に間引くことで、照明電力の数十%を削減できる可能性がある。間引きは、通常時の省エネ対策として本命とは言えず、やがて快適な照度に戻す必要が生じるが、検討時間や初期投資もほとんどいらないことから有力な緊急節電対策といえる。 間引きを行う余地や必要性は、①JIS照度基準は安全基準を上回るレベルにある、②実際の照度はJIS照度基準を上回っていることが多い、および、③極端な消灯を継続するには限界がある点からも、指摘できる。実際の事例においても、検討から実施までにはほとんど時間を要せず、そのための作業費も十分に回収できる見込みであった。
一方で、現場レベルにおいては、従業員・テナント・顧客からのクレームのリスク、慣習、間引きの実践方法に関する情報不足など、間引きを実践に移す上で様々な課題に直面することが予想される。特に、照明器具によっては器具へのトラブルも懸念されるため実施判断にあたって注意喚起も必要だが、間引きについて、通常の省エネ対策のようなわかりやすいマニュアルは整理されていない。そうしたバリアを適切に取り除かない限りは、十分な節電効果は見込めないだろう。 したがって、国や地方自治体など行政の役割として、一時的な間引きの指針となる「緊急節電推奨照度」を提示するとともに、間引きの方法や注意点などについて情報提供や指導・助言をしていくことなどが求められる。
(なお、本稿は2011年4月11日時点の知見に基づいている。実態把握や定量的検証は十分でなく、より正確な推計は今後明らかにしていくべきものとして理解されたい。)