社経研DP

2019.08.06

EUの気候変動政策と2019年の政治過程―欧州議会選挙と首脳人事からの示唆―

  • 気候変動

SERC Discussion Paper 19001

要約

 2019年は、欧州連合(EU)にとって、欧州議会選挙とEU首脳の刷新を行う、政治的に重要な年である。今後のEUがどのような方向に進んでいくのか、具体的なことは11月1日の新たな欧州委員会の発足を待たなければならないが、気候変動については、選挙や首脳の選出において既に重要な論点となっている。本稿では、2019年7月末時点までに明らかになっている事象を分析し、EUにおける気候変動政策の今後の見通しを考察する。
 5月に行われた選挙の結果、欧州議会では、2大会派である中道右派と中道左派の「大連立」が過半数を割り込む一方で、急進的な環境政策を掲げる緑の党が躍進した(「緑の波」)。7月には中道右派のウルズラ・フォンデアライエン氏が欧州委員会の次期(2019-24)委員長に選出されたが、公表された「政治指針」(次の5年間の政策の方向性を示すもの)では、積極的な気候変動政策が柱の1つに掲げられている。
 フォンデアライエン氏は、多極化した欧州議会での支持を集める過程で、気候変動政策を議会各派(特に中道左派)への説得材料として用いた。このことから、次期の欧州委員会においては、気候変動が政治的に重要なイシューとなることが見込まれる。しかし、気候変動をめぐるEU内の政治情勢としては、欧州議会において「緑の党」が存在感を増す一方、EU加盟国の間では中東欧諸国(特にポーランド)は必ずしも気候変動対策に積極的ではなく、各国や各会派の思惑が複雑に絡み合っている。
 当面は、欧州理事会における長期戦略の検討・採択の行方、そして新しい欧州委員会が策定する気候変動政策のパッケージ(”A European Green Deal”)に含まれる政策手段の具体的内容が注目される。

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