研究資料

2022.02

「第6次エネルギー基本計画」の定量的検証

  • エネルギー政策
  • 経済・社会

報告書番号:SE21502

概要

背 景

 2021年4月の気候変動サミットにおいて、菅義偉・内閣総理大臣(当時)が2030年度の温室効果ガス排出量を2013年度に比べ46%削減することを表明した。政府が2015年に策定した長期エネルギー需給見通し(2015年長期見通し)では26%削減としていたことから、20%を上積みしたことになる。これを受けて、政府が2021年10月に公表した第6次エネルギー基本計画(6次エネ基)では、エネルギー需給両面において野心的な目標が掲げられた。エビデンスに基づいたエネルギー政策の策定に向けた第一歩としては、6次エネ基での想定内容や実現可能性について検証することが重要である。

目的

 2015年長期見通しからの主な見直し項目(①経済再生を前提とした経済成長想定・主要業種活動量の停滞、②省エネルギー(省エネ)の進展、③非化石電源の拡大)を踏まえ、6次エネ基で掲げられた2030年度政府目標の実現可能性を定量的に検証し、今後の課題を整理する。

主な成果

 本検証では、温室効果ガスに含まれるエネルギー起源CO2排出量について、2019年度実績(10.3億t-CO2)から2030年度政府目標(6.8億t-CO2)までの見通し変化を、計量モデルを用いるなどして、独自に要因分解した(図)。
 結果として、主な見直し項目①~③(表)を踏まえても、2030年度の政府目標には0.7億t-CO2不足する(目標までの図中④削減必要分)ことがわかった。政府も自認するかのように、6次エネ基でも、2030年度政府目標は「非常に野心的」と記載している。以下では、それぞれの項目の概要や課題について説明する。

①経済再生を前提とした経済成長想定・主要業種活動量の停滞(+0.8億t-CO2)

・2015年長期見通しでは、実質GDPについて2030年度711兆円(2013年度比年率1.7%)まで、経済成長することを見込んでいた。しかし、2019年度実績は約550兆円(同率0.6%)に留まり、6次エネ基では2030年度660兆円(同率1.3%)に見直した。民間エコノミストの予測調査(ESPフォーキャスト調査)が2030年度600兆円(同率0.7%)以下と推計されていることを踏まえると、6次エネ基で見込んでいる経済成長は「野心的」である。
・しかし、どの産業が日本経済をどの程度牽引して、「野心的」な経済成長を実現するのか、6次エネ基には具体的な将来像が記載されているとは言えない。6次エネ基では粗鋼生産量や紙・板紙生産量など主要業種活動量が停滞するとしている。例えば、粗鋼生産量は2030年度に0.9億tと、過去30年間で最低水準となることを見込んでいる。鉄鋼業が停滞するのであれば、そのサプライチェーンに含まれる自動車産業をはじめ機械製造業も影響を受けると考えられる。しかし、機械製造業の活動量は示されていない。また、グリーン産業の育成・拡大は6次エネ基に記載がある通り重要ではあるが、2030年度まで残された時間は僅かであることから、経済成長への寄与度も限られると推察される。

②省エネの進展(▲1.7億t-CO2)

・2015年長期見通しでは2030年度まで5,000万kl程度の省エネを見込んでおり、政府はその省エネが2019年度時点で1,655万kl進捗したと評価した。これを踏まえ、6次エネ基では、運輸部門を中心に、2030年度までの省エネを6,200万kl程度まで野心的に深堀りしている。
・高効率照明(LED等)のように費用対効果の優れた対策は自ずと導入されていくことが多い。短期的な省エネ効果を追い求めて、省エネ法などで規制を強化するあまり、企業が国内投資を控えて生産拠点を海外に移すようなことがあれば、日本経済が停滞しかねない。
・省エネ対策の経済性については技術開発などにも左右されるため、見通しを示すのが難しい側面もあるが、政府には企業や家計に対して生じ得る追加的な費用負担を示していくことが求められる。

③非化石電源の拡大(▲1.9億t-CO2)

・2015年長期見通しでは、非化石電源の発電電力量について、2030年度に、再生可能エネルギー(再エネ)を2,366~2,515億kWh、原子力を2,168~2,317億kWh見込んでいた。2019年度実績は、再エネが1,856億kWh、原子力が638億kWhであり、6次エネ基では、再エネについて、主に、太陽光や風力を大胆に積み上げた「野心的水準」として、2030年度に3,360~3,530億kWhを見込む。また、原子力については、安全性を大前提に、2030年度に1,880~2,060億kWhを見込む。
・再エネについて、公共施設の屋根への太陽光パネルの設置など、公共部門における取り組みは税金により達成できる可能性はある。しかし、地元の合意形成など開発リスクが高い地熱発電・洋上風力の導入や、民間による再エネの導入が頓挫した場合には、さらに、エネルギー起源CO2排出量が0.2~0.3億t-CO2増加することになる。
・原子力について、2021年12月時点で10基の再稼働に留まり、設置変更許可済みが7基、建設中の2基を含む審査中が10基である。6次エネ基の目標を達成するためには、安全対策工事を工程通りに進め、地元の理解を得て、建設中を含む原子力発電所を再稼働させることが不可欠である。

政策的含意

 政府はこれまで削減目標を「必達」としていたが、6次エネ基で掲げられた野心的な目標に対してはその達成に向けて「最善を尽くす」ことが重視される。換言すれば目標の性質が変化したと言える。実際、パリ協定上も目標達成が義務でなく、国内施策の追求が義務になっており、「目標に向けて最善を尽くす」ことが重要であることを認識すべきである。
 今後、エネルギー政策を具体化していく上では、目標達成に拘り、エネルギー政策が経済成長を制約するようなことは避けなければならず、費用対効果の高い対策から優先的に実施する効率性の観点が重要である。
 さらに、6次エネ基で挙げられたエネルギー起源CO2排出量を削減するための省エネ対策の多くが、エンドユース機器の高効率化(エネルギー需要削減)であった。しかし、2050年ネットゼロ社会実現に向けては、電源の脱炭素化に合わせ、あらゆる分野において、エンドユース機器(例えば、給湯機器、自動車)の電化を進めることが必要になる。2030年度政府目標はネットゼロ社会実現に向けた道程であるため、今後は、長期的な視点に立脚し、欧米諸国で実施されているような、脱炭素化に資するエンドユース機器の電化を促す政策の検討も不可欠である。

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