研究資料

2020.03

洋上風力発電の促進区域選定における海鳥への影響評価に関する考察

  • エネルギー政策
  • 再生可能エネルギー

報告書番号:Y19506

尾羽 秀晃   風間 健太郎   橋本 啓史   永井 雄宇   朝野 賢司  

概要

背 景

 2019 年 4 月に再エネ海域利用法 注1)が施行され、同法内の基準に適合する一定の海域を、洋上風力発電(以下、洋上風力)の「促進区域」注2)として指定することが可能となった。他方で、洋上風力の導入が進む諸外国では、洋上風力の立地対象として選定された海域 においても、環境影響評価で海鳥への影響が問題となり、計画中止となった事例が複数 存在する。そのため、我が国の「促進区域」の検討初期において、洋上風力の設置によ る海鳥への影響を把握することが重要である。しかし、我が国では海鳥の行動データに 関する情報は整備されていないため、環境影響評価前における海鳥への影響評価が不十 分であった。

目的

 諸外国の事例を踏まえ、我が国の「促進区域」の選定において、洋上風力による海鳥への影響評価を行う際の留意点を明らかにする。その上で、地理情報システムを用いることで、海鳥への影響が懸念される海域を特定し、今後の「促進区域」の検討に向けた示唆を得る。

主な成果

1.諸外国における海鳥への影響評価の考え方と留意点
 洋上風力の導入が進む欧州や中国では、洋上風力の立地を促進する区域を定める上で、EU 指令等に基づく保護区域や、海鳥の採餌範囲などを考慮している。他方で、種の個体数減少をもたらす風車との衝突による海鳥の死亡や、餌場喪失による海鳥への影響など は考慮されていない。そのため、海鳥の分布情報に、これらの影響を考慮した風力発電感受性指標(WSI 注3))の研究が行われている。
 WSI とは、海鳥の分布密度と、海鳥に対するリスク感受性指標(SSI 注4))の2 点で決定される評価指標である(図 1)。WSI の変数となる SSI は、海鳥の特徴に基づき、衝突リスク、生息地改変リスク、希少性に関わる 9 種類のリスクパラメータの得点(5 段階)を決定し(表 1)、図 2 に示すモデルで計算される。WSI を用いることにより、海鳥の各特性を考慮した評価を、広域でかつ多くの種を対象に把握することが可能となる。
 ただし、我が国で WSI を用いた評価を行う場合には、海鳥の分布密度を文献情報等から推定する必要性がある点 注5)や、リスクパラメータの得点算定時に、専門家によるばらつきが生じる点について十分留意する必要がある。今後精度の高い評価を行う上では、海鳥の行動などの生態学的実データを蓄積し、定期的に前提条件や SSI モデル等の見直しを行うことが重要である。

2.北海道を事例とした海鳥への影響評価の検討
(1)風力発電感受性指標を用いた評価方法
 海鳥の生息数が多い北海道周辺の海域を対象とし、500 m 四方の海域メッシュにおけるWSI を推計した。なお、WSI の 2 種類の変数については、以下の通り検討した。
 (i)海鳥の分布密度: 北海道で繁殖する 13 種類の海鳥を対象とし、「海鳥コロニーデータベース」を基に、計 211 の営巣地の緯度経度、営巣数、採餌半径の情報を整備し、海鳥の分布密度を推計した。
 (ii)リスク感受性指標: 対象とした海鳥もしくは近縁種の特徴に関する文献情報に基づき、各リスクパラメータの得点を決定し、Garthe モデルとBradbury モデルの2 種類のモデルで SSI を推計した(図 3)。
(2)北海道における海鳥への影響評価の結果
 WSIを提唱したGarthe らの評価基準に基づき、WSI に応じて3 段階の懸念レベルに分類すると、SSI モデルに関わらず、道東と道北で海鳥への影響が特に懸念されることが示された(図 4)。さらに、再エネ海域利用法に基づく「促進区域」の対象海域 注6)と重ね合 わせると、着床式風車の対象海域の約 7 割、浮体式風車の対象海域の約 5 割で、「懸念大」もしくは「懸念中」の海域と重複する(図 5)。そのうち「懸念大」の海域においては、 希少性が高い種(ウミスズメ科・ウ科)と、衝突リスクが高い種(カモメ科)の両方が分布する(表 2)。そのため、環境影響評価においては特に慎重な配慮を要する。

今後の展開

 既に「促進区域」の指定に向けた検討が進められている中で、現状では生態系影響に関する具体的な評価手法や基準は定められていない。一方で、本研究の成果からは北海道で「促進区域」の対象となる海域の多くでは、海鳥への影響が特に懸念される海域と重複することが明らかとなった。今後は、国を主体とした海鳥の分布密度の収集などによって、WSI を用いた評価の精度を高めることで、事業開始前の環境影響評価の項目の削減や、評価期間の短縮化も可能となり得る。一方で、欧州の環境影響評価で既に行われているように、事業開始後のモニタリングや影響評価を重視し、これに基づいた運転計画の変更を行うといった順応的管理を志向することが望まれる。

注1)海洋再生可能エネルギー発電設備の整備に係る海域の利用の促進に関する法律(平成 30 年法律第89 号)。
注2)再エネ海域利用法の下で、我が国の領海及び内水の海域のうち、同法内の基準に適合する一定の区域を「海洋再生可能エネルギー発電設備整備促進区域」として指定可能である旨が規定されている(第8 条)。
注3)Wind farm sensitivity index の略。
注4)Species-specific sensitivity indexの略。
注5)欧州では、海鳥の飛行データを船舶や航空機に搭載したレーダーによって収集し、10-30 年間の長期に渡って収集したデータを基に、海鳥の分布密度が評価されている。
注6)具体的な対象海域の抽出方法については、尾羽ら(2019)「再エネ海域利用法を考慮した洋上風力発電の利用対象海域に関する考察」(研究資料Y19502)に示す。

キーワード

再生可能エネルギー、エネルギー政策、風力発電、洋上風力、再エネ海域利用法

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