研究資料

2021.03

2030年度までの日本経済・産業・エネルギー需給構造の検討

  • エネルギー政策
  • 経済・社会

報告書番号:Y20506

概要

背 景

 第6次エネルギー基本計画の策定を議論する政府審議会では、2050年までのカーボンニュートラル実現を目指すための課題と対応の検証を行った上で、2030年目標の進捗と更なる取組の検証を行うとしている。しかし、政府の「長期エネルギー需給見通し(政府見通し)」や「第5次エネルギー基本計画」の策定から月日が経過しており、新型コロナウイルスの感染拡大を含め足元の経済・社会情勢が変化していることから、これらを踏まえたエネルギー需給構造を検討する必要がある。

目的

 政府見通しが策定された2015年7月からの状況変化を織り込み、2030年度までの日本経済・産業・エネルギー需給構造を検討して、その結果を政府見通しと比較する。

主な成果

1.日本経済・産業構造
・日本経済は新型コロナウイルス感染拡大の影響により2020年度に大きく落ち込むが、その後は回復していく。その結果、2013年度から2030年度までの実質GDPの平均成長率は年率0.5%と、民間シンクタンクの予測調査(ESPフォーキャスト調査)と同程度であるが、政府見通しで見込まれている経済成長(年率1.7%)を下回る(図1)。
・産業構造は、高齢化や情報化を背景に、業務部門では情報通信、医療・介護などが拡大する。また、産業部門は、業務部門に比べて、2030年度にかけて緩慢な増加にとどまるが、なかでも電気機械や輸送機械が牽引する。

2. 最終エネルギー消費
・最終エネルギー消費は、産業部門と業務部門では、2020年度を底に、生産活動に応じて緩やかに増加する一方、家庭部門や運輸部門では、世帯数の減少や自動車の燃費向上から、2030年度にかけて減少していく結果、日本全体では2030年度に3.3億原油換算キロリットルと、政府見通しと同程度になる(図2)。これは、政府が示す“徹底した省エネ”がすべて実現するためではなく、政府見通しで見込まれている経済成長を下回るためである。仮に“徹底した省エネ”が実現すれば、最終エネルギー消費は更に減少する可能性はあるが、2030年度まで残された時間は僅かであり、省エネの実現可能性は別途精査が必要である。

3. 電力需要・電源構成
・電力需要(自家消費電力量含む合計)は2030年度に9,821億kWhと、最終エネルギー消費と同様、政府見通しと同程度になる(図3)。
・発電電力量(自家用発電電力量含む合計)は、電力需要に応じて、2030年度に10,987億kWhになる。電源構成は2030年度に火力が49.1%、原子力が20.9%、再エネが27.4%と、政府見通しと比較すると、再生可能エネルギー比率(特に、太陽光と風力)が上回る分、火力比率が下振れ、電力の低炭素化がより進展する(表)。

4. エネルギー起源CO2排出量
・エネルギー起源CO2排出量は日本全体で2030年度に8.74億t-CO2(2013年度比29.3%減少)と、政府見通しの削減目標の9.27億t-CO2(同25.0%減少)を達成する。
・このように、最終エネルギー消費や電力需要が政府見通しと同程度である一方、CO2排出量が下回っているのは、電力の低炭素化が進展するためである。

政策的含意

 政府審議会では、本資料の執筆時点(2021年3月)において、政府見通しが掲げた2030年度までの温室効果ガス排出削減目標の見直しが検討されている。他方、2030年度までに残された時間は限られており、実現可能な方策も限られている。目標見直しにおいては、足元の状況変化を織り込んだ経済・産業・エネルギー需給構造を踏まえ、議論を進める必要がある。

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