技術職の安全へのモチベーションに関する影響要因の解明



背景


 電力自由化を迎え、電力会社は厳しい競争環境下におかれる中で、個々の社員には高いモチベーションで業務に取り組むことが求められている。一方、モチベーションには方向性があり、一見、社員が意欲的であってもその方向性が利益追求ばかりに向かっていた場合、安全への方向付けが十分ではない可能性がある。また、職位により求められる責任や役割が異なることから、職位ごとにモチベーションへの影響要因が異なっていると考えられる。


目的


 職位に応じた安全へのモチベーション向上策の検討に資するため、安全文化の視点から技術職として重要と考えられる行動(以下、技術職の行動)に対する意欲やその実践への影響要因を明らかにする。


主な成果


 電力会社A社の火力部門の技術系社員を対象に実施したモチベーションに関するアンケート調査で得られたデータを元に分析を行ったところ、以下の結果が得られた。

(1) 尺度の作成
 アンケート調査データに対して因子分析等を行うことにより、以下の尺度が得られた。
・ 技術職の行動への「意欲」の尺度:3尺度  – 安全・規則遵守行動への意欲[項目数:7]
 – 職場の人への協調・支援行動への意欲[項目数:4]
 – 業務改善・チャレンジ行動への意欲[項目数:5]
・ 技術職の行動への「実践」の尺度:3尺度
 – 安全・規則遵守行動の実践[項目数:7]
 – 職場の人への協調・支援行動の実践[項目数:4]
 – 業務改善・チャレンジ行動の実践[項目数:5]
・ 技術職の行動への意欲・実践に対する「影響要因」の尺度:14尺度
 – (軸01)仕事での自己実現[項目数:9]
 – (軸02)仕事での目標設定[項目数:3]
 – (軸03)仕事に対する責任・権限・信頼[項目数:8]
 – (軸04)教育・チャレンジの機会・設備環境[項目数:5]
 – (軸05)人事評価・昇進・給与[項目数:5]
 – (軸06)技術伝承の環境[項目数:2]
 – (軸07)安全・規則遵守への評価[項目数:4]
 – (軸08)職場での良好な人間関係[項目数:15]
 – (軸09)会社と従業員との価値・目標・情報の共有[項目数:10]
 – (軸10)会社の将来性・安定性[項目数:2]
 – (軸11)社外からの会社への評価[項目数:4]
 – (軸12)会社からの地域・取引先・従業員との関係への配慮[項目数:3]
 – (軸13)会社からの従業員の生活・健康への配慮[項目数:5]
 – (軸14)十分な休暇と無理のない仕事量[項目数:6]

(2) 仕事全般への意欲、技術職の各行動に対する意欲・実践に関する職位別分析
 職位別(副長クラス、主任クラス、一般職)に、「仕事全般への意欲」、(1)で作成した「技術職の各行動への意欲(3尺度)」、「技術職の各行動の実践(3尺度)」を従属変数、(1)で作成した「技術職の行動への意欲・実践に対する影響要因(14尺度)」および「勤続年数」を独立変数として、主成分への回帰による重回帰分析*1を行い、以下の結果が得られた(表1)。

  • ・ いずれの職位でも、「安全・規則遵守行動の意欲・実践」には「安全・規則遵守への評価」が大きく影響していた。
  • ・ いずれの職位でも、「業務改善・チャレンジ行動の意欲・実践」には「仕事に対する責任・権限・信頼(軸03)」と「会社と従業員との価値・目標・情報の共有(軸09)」がほぼ共通して影響していた。
  • ・ 副長クラスと主任クラスでは、「安全・規則遵守への評価(軸07)」が、仕事全般への意欲や「職場の人への協調・支援行動の意欲・実践」「業務改善・チャレンジ行動の意欲・実践」の多くに影響していた。
  • ・ 一般職では、「仕事での自己実現(軸01)」「会社からの従業員の生活・健康への配慮(軸13)」が技術職の各行動に対する意欲に影響していた。

 また、「安全・規則遵守行動の意欲・実践」の平均値について、職位別、勤続年数別に分析した結果(図1)、勤続年数20~25年未満の一般職は「安全・規則遵守行動の意欲・実践」が低い傾向が見られた。これには、昇進がなく現在の職位に長期間留まっている状態(キャリア・プラトー)が影響している可能性が考えられた。

*1:独立変数のデータ(勤続年数と軸01~14の得点)に対して主成分分析を行い、得られた主成分得点を独立変数とした重回帰分析を行った。ここで得られた標準偏回帰係数と主成分ベクトルの積和から、元の各独立変数に対する標準偏回帰係数を算出した。



[関連報告書]





(表1)


(図1)