安全に影響を及ぼす個人・組織要因の解明



背景


チェルノブイリ事故を契機にIAEAを中心として、組織が安全を重視する態度を総称した「安全文化」の重要性が指摘されてきた。IAEAの報告書INSAG-4によると、安全文化を構成するのは①組織的な枠組み(フレームワーク)、②従業員の態度、の2つの要素である。そのため、組織的な安全マネジメントを有効に機能させたり従業員の安全意識・行動を向上させる取組みの要件の解明が求められている。


目的


安全マネジメント(安全管理の諸施策)の有効性、および安全態度に影響を及ぼす要因を解明する。


主な成果


(1) 安全マネジメントの有効性に対する影響要因
 当所による安全診断*aを数年の間隔をあけて二度実施した企業一社(主たる業務は設備の運営・保守・管理)において以下①~③の特徴を示した*b複数の事業所を対象に、安全管理施策の現状や変化の理由等を尋ねるインタビュー調査を行った。その結果、以下の特徴が認められた。

① 高水準の安全性を維持していた事業所
業務との一体化や意識づけに配慮しながら安全管理施策を導入しており、事業所トップ層による情報提供やアドバイスに基づき、ユニークで種類の豊富な施策が行われている。事業所内のコミュニケーションについては縦・横方向とも活発で、協調的な雰囲気の下、他者に対する注意や声掛けが行われている。
② 安全性が向上した事業所
業務改革運動の導入等により、明確な目標下で業務・安全活動が実施されている。また、企業・事業所のトップ層による積極的な声掛けやコミュニケーションに焦点を当てた施策(所員による1分間スピーチ等)によりコミュニケーションが活発になった。
③ 安全性が低下した事業所
数多くの安全管理施策をこなしているものの、施策の内容が現状とかけ離れていたりマンネリ化している。業務改革運動は牽引役が明確でないことなどからうまく遂行されておらず、負担感を生んでいた。共同作業の減少や事業所トップ層からの声掛け不足等により、縦・横方向ともコミュニケーションが活発でない。

(2) 安全意識・行動に影響を及ぼす組織内コミュニケーション上の要因
 わが国の電力会社社員を対象として2001年に実施した質問紙調査のデータを用い、成員の安全意識・行動に関連するコンテクスト(組織文化やそれが具現化した組織体系・制度など)や、それらのコンテクストに関連する業務上のコミュニケーション、コミュニケーションが行われる環境の関係を、相関分析によって明らかにした。結果は以下のとおりである。

① 「工程より規則遵守を重視」「作業前の手順チェック」「規則を守らない仲間への注意」といった安全への態度・行動との関連が強いのは、“慎重に作業を進める”コンテクスト(「スケジュールよりも規則遵守」「作業を止めてでも安全を確保」)である。このコンテクストは、①従業員からの意見を職場の改善や施策に活用する、②トラブル事例や知識・経験を安全対策に反映させる、③職場の方針を職場に理解・浸透させる、④トラブル時でも情報を正確に伝達する、といったコミュニケーション特性と関連している。〔図1〕
② 「職場・会社に対する誇り」「達成感」といったポジティブな感情と関連が強いのは、“積極的・協力的に業務に取り組む”コンテクスト(「意見を取り入れ前向き」「新しいことに挑戦」など)である。このコンテクストは上述の①~③に加え、⑤事故情報や職場の問題点を周知する、⑥上司から明確な指示が出される、⑦迅速に意思決定を行う、⑧他部署と活発に情報交換する、といったコミュニケーション特性と関連している。〔図2
③ ①・②で挙げた業務上のコミュニケーションは、改善意見の奨励や問題点の報告体制の構築、上司への信頼や職場内の良好な人間関係など、報告や対話を促進する職場環境との関連が強い。〔図1

*a 従業員の意識・行動や安全管理、組織風土が組織の安全性に及ぼす影響を総合的に勘案し、組織全体の安全性を評価する手法。「安全診断システム」として、これまで当所で開発を行ってきた。
*b 「安全診断システム」にて、組織の安全性の評価指標として用いている「総合的安全指標」に基づいて選定した。



[関連報告書]


電力中央研究所報告Y08057 「組織内コミュニケーションによる安全文化の醸成プロセスに関する一考察」
電力中央研究所報告Y07017 「組織の安全性への影響要因に関する事例研究」




(図1)


(図2)