社経研DP

2024.11.13

販売電力量を対象とした構造方程式モデルによる因果構造分析とシミュレーション分析の適用可能性の検討

  • エネルギー需要
  • 経済・社会

SERC Discussion Paper 24002

要約

 本研究では、国や地方自治体が公表しているオープンデータを活用し、販売電力量に対する因果構造分析を行う。これまでの電力需要分析では、販売電力量とその変動要因の関係性を調べるために、重回帰分析が行われてきた。しかし、従来の方法では、モデルで表現することが難しい複雑な因果構造に基づく仮説をデータから統計的に検証することが困難であった。

 そこで、販売電力量を対象とした因果構造分析を行うために、本研究では、構造方程式モデルを適用し、人口・経済・気温要因と販売電力量の関係性について分析(図1)を行い、電力需要分析への適用可能性について検討した。その結果、同モデルによって人口・経済・気温要因と販売電力量との関係性を、より詳細に直接的効果のみならず、間接的効果まで把握できることを示した。販売電力量とその変動要因に関する仮説の検証結果を確認すると、人口は、販売電力量(低圧)に対して直接的な影響を及ぼすが、地域の経済活動を表す県内総生産にも影響を及ぼす傾向がみられ、販売電力量(特高・高圧)に対しても、間接的に影響を与える可能性が確認された。このことから、人口が減少した場合には、販売電力量(低圧)の減少だけでなく、経済活動の停滞をもたらし、間接的に、販売電力量(特高・高圧)の減少に波及する可能性があることを確認した。さらに、県内総生産と雇用者報酬(所得要因)の間には正の相関がみられ、地域の経済活動が停滞し、需要家の所得が増えない場合、結果として販売電力量(低圧)の減少に繋がる可能性があることも確認した。

 次に、推定された構造方程式モデルを用いて、本研究では6つのシナリオについて、都道府県別販売電力量の推計を行い、シミュレーション分析への適用を試みた(図2)。例えば、電力価格高位・猛暑ケースでは、燃料価格の高騰や為替の影響により電力価格が高騰した2022年度における経済変数の値と、猛暑であった2023年度における冷房度日の値を使用して、都道府県別に販売電力量の推計を行った。その結果、電力価格高位ケースの場合、低位ケースと比べ販売電力量の微減傾向がみられ、猛暑ケースと厳冬ケースの場合、平年ケースと比べ増加することを確認した。また、本分析で示した区間予測の結果は、販売電力量の推計値に対する上振れ・下振れリスクと捉えることができ、幅を持たせた予測が可能となる。シミュレーション分析の結果から、低圧販売電力量と比べ、特高・高圧販売電力量の方が95%予測区間の幅が大きくなる傾向が確認された。この推定結果の違いは、分析期間によって変化する可能性もあるが、低圧販売電力量と比べ、特高・高圧販売電力量は、経済要因(県内総生産など)からの影響を受けやすいことから、95%予測区間の幅が大きくなったものと推察される。

免責事項

本ディスカッションペーパー中、意見にかかる部分は筆者のものであり、電力中央研究所その他の機関の見解を示すものではない。

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