要約
2026年度から開始した排出量取引制度(GX-ETS)の第二フェーズにおける排出枠の取引市場は、2027年秋頃に開設見込みである。GX-ETSでは、余剰排出枠を将来の排出に備えて繰り越し保有する「バンキング」が認められている。バンキングは企業によるコストの平準化や早期の排出削減インセンティブの向上に寄与する一方、排出枠が過度にバンキングされると市場への排出枠の供給が減少し、市場流動性の低下や価格の高値誘導を招く可能性がある。このため、GX-ETSでは、バンキングの利点を維持しつつ、過度なバンキングをどのように抑制するかが課題となる。本稿では、GX-ETSの制度設計に関する示唆を得るため、米国カリフォルニア州ETS、北東部州のRegional Greenhouse Gas Initiative(RGGI)、ニュージーランドETS、中国ETS、韓国ETSに加え、英国のRenewables Obligation(RO)制度、カリフォルニア州ZEV規制、中国NEV規制などのクレジット制度も参照し、過度なバンキングへの対応策を分析した。
各国・地域における過度なバンキングへの対応策は、①個社保有量の上限設定(カリフォルニア州 ETS)、②バンキング量に応じた排出枠の新規供給量の調整(RGGI、ニュージーランドETS)、③市場供給量に応じた制限(中国ETS、韓国ETS)、④排出枠(証書・クレジット)の有効期限の設定や減価の導入(英国RO制度、カリフォルニア州ZEV規制、中国NEV規制)の4類型に整理できる。これらの対応策は、市場支配力の抑制、排出枠の供給過剰への対応、市場流動性の向上、遵守の柔軟性向上といった異なる目的で運用されており、それぞれの目的の達成に一定程度寄与していると考えられるが、市場流動性、予見可能性、排出削減インセンティブおよび行政コストなどの観点から、それぞれ異なる特徴と課題を有している。このことを踏まえ、GX-ETSの制度設計においても、バンキングを抑制する目的を明確にし、その目的に沿った対応策を慎重に選択することが求められる。
免責事項
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