J-HPESを用いたヒューマンエラー事例分析



背景


原子力発電所で起こったヒューマンエラーを含む事象(以下ヒューマンエラー事例)の原因を分析・評価し、効果的な対策を講じることは、同種のヒューマンエラーの再発防止や類似したヒューマンエラーの未然防止に重要な役割を果たす。当所では原子力発電所におけるヒューマンエラー事例の分析評価のため、分析評価手法J-HPESならびにその手法をコンピュータに実装したJAESSを開発した。これにより、原子力発電所におけるヒューマンエラー事例の画一的な分析ならびに総合的な検討が可能となった。


目的


過去に国内原子力発電所で発生したヒューマンエラー事例をJ-HPESで分析する。この結果を元に各種情報を集約し、統計分析することにより、エラーの型、原因などの共通的な傾向や典型的なエラー発生パターンを抽出し、同種作業への注意喚起や作業状況改善のための基礎データとする。


主な成果


(1) J-HPESによる分析:我が国で最初の原子力発電所が運転開始して以来、発生したヒューマンエラー事例約210件を、J-HPESの手法を用いて分析した。トラブル数、ヒューマンエラー数の推移を図1に示す。

(2) 共通的な傾向の把握 (66~96年度のデータ、(3)も同じ)

  • a. エラーの型:最も多いエラーの型は、「締付時トルク管理不備(全体の2割)」「端子・配線の誤接続・誤配線(1割)」「操作時の些細な不注意(1割)」および「ユニット・部品などの取り違え(1割)」などの順となっている(図2)。

  • b. 原因:原因のうちで最も多いものは、個人の心理・生理および経験・能力に関連した「内的原因」である。

  • c. 対策:個々の事例の対策を、①機器改善(ハードウェア対策)、②作業環境改善(ハードウェア対策)、③手順書、管理手法(ソフトウェア対策)、④教育訓練・周知徹底など(ソフトウェア対策)に分類し、統計的に有効性を検討した結果、①のハードウェア的対策が最も有効であることが示唆された

(3) エラー発生パターンの把握:運転にかかわるエラーの型、発端、原因、発生時の状況などの要因の結びつきの強さを、多変量解析の手法を適用して分析し、典型的なエラー発生パターンを把握した。図3は要因間の関係を図示したものである。この図では、関連の深い要因は距離的に近くプロットされ、エラー発生パターンを読みとることができる。また、発生時期別のエラー発生パターンについても同様に分析し、発生時期によらない共通的なパターンと発生時期によって変化しているパターンを識別できた。


[関連報告書]





(図1)


(図2)


(図3)