組織・意識面から見た安全診断システムと安全性向上システムの構築



背景


チェルノブイリ事故を契機にIAEAを中心として組織が安全を重視する態度を総称した「安全文化」の重要性が指摘されてきた。わが国においても、組織要因が主因となったJCO事故、雪印中毒事故や、相次ぐ医療事故が発生するに及び、組織としての安全姿勢や管理の実効性が問われた。このような状況のもと、わが国の電力業界においても、組織要因や従業員の意識面に踏み込んだ安全文化を醸成するための具体的な取り組みが求められていた。


目的


安全文化というあいまいな概念を具体化し、組織面や従業員の意識面に踏み込んで事業所ごとに実効ある安全文化を築くための「安全性向上システム」を構築する。このシステムは、事業所・業種ごとに安全レベルを把握するための「安全診断システム」および診断結果から具体的な対応策を提言する「安全改善システム」から構成される(図1参照)。ここでは、安全診断システムの構築について述べる。


主な成果


(1) 開発している安全診断システムは次の機能を有する。

  • ① 表面的な安全施策だけではなく、組織風土、安全管理、安全意識が総合的に評価でき、労働災害と設備災害を分離して評価できる。
  • ② 組織全体としての総合的な安全レベルを定量できる。
  • ③ 安全上、重要ないくつかの要因のプロフィールが作成できる。


(2) 安全診断システムの中核となる組織風土、安全管理、安全意識を包括的に調査できる様式を作成し、同一産業界の14事業所を対象にアンケート調査した結果、以下のことが明らかとなった。

  • ① 122項目のアンケート項目個々について有意差分析を行った結果、標準値との差異による事業所ごとの違いが明瞭に表れ、調査方式として十分な感度を持つことが分かった。
  • ② アンケート項目全体の主成分分析*1を行ったところ、第一主成分*1に安全上重要な設問が表れ、この値を事業所全体の安全度を表す「総合的安全性」の指標とみなせることが分かった。また、この指標は労働災害・設備災害と有意な相関を示すことから指標としての妥当性が検証された。
  • ③ 災害発生率と個々の設問の相関分析により、設備災害あるいは労働災害のそれぞれと有意な相関関係にある項目を示した。これにより、設備災害・労働災害を分離して改善策に結びつけられる。


(3) 事業所の特徴を把握できるよう122設問を20の安全要因にグループ分けし、それらのスコアを全体平均と比較することが可能な安全要因プロフィールを作成することができた(図2参照)。これにより、個別の事業所の弱点を見出し、具体的な安全策と結びつけられる診断結果が提供できる。


(4) 安全向上システムの基礎データを収集するため、具体的な安全策や安全活動を考案する場合のヒントとなる安全優良企業の現状を調査した。

*1:多くの変数の中から変数の変動の特徴をよく表す合成変数を見出す手法で、第一主成分には、全体の傾向を特長づける変数が集まり、その得点値の大小で全体の傾向が把握できる。



[関連報告書]



(図1)


(図2)