電力経済研究 No.70

2025年2月

原子力発電所の廃止措置及び廃棄物処分を巡る資金管理上の課題は何か
-本特集号の概要-

Current and Future Challenges on the Fund Management for Decommissioning and Radioactive
Waste Disposal of Nuclear Power Plants in Japan
Outline of This Special Issue

  • キーワード:
  • 廃止措置
  • 放射性廃棄物処分
  • 不確実性
  • 資金調達

要旨

本特集号は、電力中央研究所がこれまで実施してきた諸外国の原子力発電所の廃止措置及び廃棄物処分を巡る資金管理に関する研究成果をとりまとめ、日本における今後の検討に資する知見を提供することを狙いとしている。この総説では、日本の原子力発電所の廃止措置及び廃棄物処分事業の現状を概観し、資金管理に着目する理由を述べた上で、調査対象国である米国、英国、フランス、スウェーデンでどのように資金管理が行われているのかを、所収する各論文に基づいて概説する。

1. はじめに

 日本は原子力発電を基幹電源と位置付け、その活用を図ってきた。2011年の福島第一原子力発電所事故を経て、2006年の原子力立国計画策定時のような、新増設・リプレースや国際展開に積極的な方針からは後退したものの、既設炉を継続的に活用していく方針は維持されている。2021年に取りまとめられた第6次エネルギー基本計画では、2050年カーボンニュートラルの実現のために、再生可能エネルギーの最大限の導入に取り組むことに加えて、原子力発電については、安全性の確保を大前提に、必要な規模を持続的に活用していく方針が示された。2024年12月現在は、第7次エネルギー基本計画の策定作業が進められているが、2022年のロシアによるウクライナ侵略等を契機として、エネルギー安定供給の重要性が再認識される中で、原子力発電をこれまでよりも積極的に活用していく方向性が示されるかが注目される。

 このように、電力供給やエネルギー政策において原子力発電が占める重みは、エネルギー需給構造、国際情勢、各種発電技術のイノベーション等が及ぼす状況変化によって左右されるが、こうした動向がどのように変化しようとも、いずれにせよ重要になるのが、原子力発電のバックエンド事業である。一般的に、バックエンド事業とは、原子力発電所において発電がなされた後の工程に係る事業を指す。具体的には、①使用済燃料の再処理、②使用済燃料を再処理するまで一時的に保管する中間貯蔵、③特定放射性廃棄物(再処理後に発生する高レベル放射性廃棄物1)及びTRU2)廃棄物)の処分、④運転及び廃止措置の過程で生じた放射性廃棄物の処分、⑤運転終了後の原子炉を安全に解体・廃炉する廃止措置に大別される。

 本特集号で取り上げるのは、バックエンド事業のうちの「廃止措置及び廃棄物処分事業」(上記の④及び⑤)に対する「資金管理」である。資金管理に着目するのは、発電という収益を生む事業の終了後に長期にわたって費用が発生するという構造上、予め資金を蓄積していく必要がある一方で、将来に発生する費用の見積もりには大きな不確実性が伴うことから、どの時点でどの程度の資金を貯めておくべきかを確定することが難しいという矛盾があるためである。本特集号では、諸外国の廃止措置及び廃棄物処分事業の資金管理の現状を調査し、この矛盾にどう対処しているのかを明らかにすることを通じて、日本における

2. 日本のバックエンド事業の現状と資金管理

2.1. 日本のバックエンド事業の現状

 福島第一原子力発電所事故前に廃止が決定した原子力発電所は、日本原子力発電株式会社の東海発電所と、中部電力株式会社の浜岡原子力発電所1号機及び2号機のみであった。東海発電所は、日本国内で唯一の黒鉛減速炭酸ガス冷却炉3)であり、その後に建設された軽水炉と比較して十分な経済性がなかった等の理由もあって、1998年3月31日に運転終了し、廃止措置に移行している。浜岡原子力発電所1号機及び2号機は、主に地震に対する補強工事に係る費用等を考慮して、2008年に、6号機を新設し、1号機及び2号機を運転終了するリプレース計画を決定した。同計画にしたがって、1号機及び2号機は、2009年1月30日に運転終了し、廃止措置に移行している。6号機の新設計画については、福島第一原子力発電所事故の影響等もあって、当初の予定通りではないが、1号機及び2号機は予定通りに廃止措置に移行し、各段階における作業が進められている。

 福島第一原子力発電所事故以降、事故の教訓を踏まえて強化された新規制基準が策定された。主に、新規制基準に適合するために必要な追加的な工事等に係る費用と、その後の発電によって得られる利益を勘案した結果として、2024年12月現在までに国内の23基の商業用原子力発電所の廃止が決定されている。上記の3基を含め、廃止措置が決定された各機の名称と運転終了日等をまとめたものを表1に示す。

 廃止措置は約30年以上を要する工程であり、日本では、「解体工事準備」、「原子炉周辺設備等解体撤去」、「原子炉領域解体撤去」、「建屋等解体撤去」の4段階(各段階の名称は、事業者ごとに若干の差異が見られる場合がある)に分けて計画が策定されている。各段階の予定期間は、炉型や発電所の状況等によって変化するため、一律ではない。表1に示した各発電所から、PWR3基、BWR3基をそれぞれ選び、それらの廃止措置計画から、上記の4段階の予定期間をまとめたものを表2に示す。比較的早期に廃止措置を開始した浜岡原子力発電所1号機及び2号機においても、2024年12月現在で、原子炉周辺設備等解体撤去の段階であり、原子炉の解体が始まった国内の原子力発電所はまだ存在しておらず4)、廃止措置が本格化するのはこれからであると言える。

 日本の放射性廃棄物処分事業については、特定放射性廃棄物の最終処分に関する法律(平成12年法律第117号)に基づき、特定放射性廃棄物(高レベル放射性廃棄物及びTRU廃棄物)の処分は、原子力発電環境整備機構(The Nuclear Waste Management Organization of Japan:NUMO)が実施することになっており、2024年12月現在において、北海道の寿都町及び神恵内村、佐賀県玄海町で、処分場立地に関する文献調査が行われている5)

 原子力発電所の運転及び廃止措置の過程において発生するその他の低レベル放射性廃棄物6)の処分は、事業者が実施することになっている。低レベル放射性廃棄物の一部は、青森県六ケ所村にある日本原燃株式会社の低レベル放射性廃棄物埋設センターにおいて処分することになっているが、放射能レベルが比較的高い炉内構造物等については、2024年12月現在において、処分場等の詳細は未定である。

 なお、本特集号では、バックエンド事業の資金管理に着目し、技術的詳細や安全規制等に関連する制度的側面には立ち入らないが、これらについては、先行研究の蓄積がある。例えば、技術的側面については、日本原子力学会バックエンド部会や原子力デコミッショニング研究会等を始めとして、関連する各主体によって検討が進められている(例えば、2009年から2010年にかけて日本原子力学会誌にて連載された記事「21世紀の原子力発電所廃止措置の技術動向」(石倉(2009)を始めとした計8回の連載記事))。近時の技術開発の現状と課題についても、2023年の日本原子力学会誌での特集記事「バックエンドに関する技術開発の将来展開」(井口(2023)を始めとした計5本の特集記事)で紹介されている。バックエンド事業の安全規制等に関連する制度的側面については、エネ総工研(2013)や三菱総研(2020)等において、諸外国の事例が紹介されている。

2.2. 日本のバックエンド事業の資金管理の現状と課題

 廃止措置に関連する費用の取り扱いについては、2013年と2015年の2度にわたって会計制度が改定された。当時の問題意識は、原子力発電について、「依存度を可能な限り低減させていく政府方針の下、財務会計上の理由から廃炉の判断が影響を受けることを回避し、事業者による廃炉の判断が適切かつ円滑に行われるようにする」ことであった(廃炉会計WG, 2015)。そのために、主に、廃炉判断を行った場合に、一括費用計上によって事業の継続が困難となるような事態を回避するための措置(一定期間をかけた償却・費用化等)が講じられた。また、総合資源エネルギー調査会基本政策分科会電力システム改革貫徹のための政策小委員会では、自由化の下での廃炉会計制度のあり方について議論がなされた(貫徹小委, 2017)。

 その後、総合資源エネルギー調査会電力・ガス事業分科会原子力小委員会(以下、原子力小委)の第28回会合(2022年6月30日開催)において、(事故炉ではない)通常炉の廃止措置を効率的かつ円滑に実施し、完遂するための課題をさらに整理し、課題解決に必要な事業体制や資金確保のあり方等を検討することを目的として、原子力小委の下に「廃炉等円滑化ワーキンググループ」(以下、廃炉WG)を設置することとなった(原子力小委事務局, 2022)。

 廃炉WGの中間報告では、着実かつ効率的な廃止措置を実現するため、国による一定の関与・監督の下、日本全体の廃止措置の総合的なマネジメント等を行う認可法人(以下、認可法人)を設置するとともに、認可法人の業務全体に要する費用(日本全体の原子力発電所の解体等に要する費用を含む)を、拠出金として原子力事業者から当該法人に拠出することを義務付ける制度を創設することが適当であるという政策の方向性が示された(廃炉WG, 2022a)。

 2023年5月に、GX脱炭素電源法(令和5年法律44号)が成立し、円滑かつ着実な廃炉の推進を目的とし、原子力発電所の廃炉(廃止措置)に係る制度改正が実施された。同制度改正の一環として、上記の政策の方向性に基づいて、廃炉費用の確保を確実にするための措置がなされた7)。具体的には、「原子力発電における使用済燃料の再処理等の実施に関する法律」8)(平成17年法律48号)が改正され、使用済燃料再処理機構(改正前)の業務として、新たに、廃炉の総合的調整、研究開発等の共同実施、廃炉に必要な資金の管理業務が追加された。同法改正に伴って、使用済燃料再処理機構の名称は“使用済燃料再処理・廃炉推進機構”(Nuclear Reprocessing and Decommissioning facilitation Organization of Japan:NuRO)へと改められた。同法改正によって、原子力発電所の運転事業者に対しては、NuROに対する廃炉拠出金の拠出が義務付けられた。今後は新体制の下での廃止措置事業の確実な実施が期待される。

 バックエンド事業の資金管理については、経済協力開発機構原子力機関(Organisation for Eco-nomic Co-operation and Development / Nuclear Energy Agency:OECD/NEA)が、加盟国における費用見積や資金確保に関する取組を取りまとめた報告書を2016年に発行した(OECD/NEA, 2016)。加えて、2021年には、廃棄物管理を含めたバックエンド事業のための適切な資金確保に向けた各国の取組を取りまとめた報告書を発行した(OECD/NEA, 2021)。エネ総工研(2013)では、諸外国の廃止措置政策や具体的な廃止措置実績に関する調査結果がとりまとめられており、その中で、廃止措置費用の資金確保に関する各国の状況が紹介されている。

 バックエンド事業を円滑に実施するには、廃炉や最終処分に要する費用を算定し、必要な資金を予め蓄積しておくことが重要となるが、バックエンド事業は長期間に及ぶため、費用の見積もりには大きな不確実性が伴う9)。そうした不確実性、特に上振れリスクに予め備えておかなければ、円滑な事業実施に支障をきたしうる。2.1で述べたように、2024年12月現在において、日本には原子炉の解体が始まった原子力発電所はなく、諸外国の事例を参照することができるとは言え、バックエンド事業の総費用が実際にどの程度必要になってくるのかが明らかになるのはこれからであると言える。

 費用上振れリスクへの対応や資金確保は、発生者負担原則(Polluter Pays Principle:PPP)に基づいて、原子力発電所を運転する事業者が負担するのが一般的である。日本では、自由化された電力市場における競争環境下で、民間事業者が原子力事業を実施しているが、バックエンド事業のための安定的な資金確保は、事業者にのみ責任を負うべきものではなく、官民の役割分担を含めて政策的な対応が求められる課題である。さらに、政府における検討においても、「廃炉拠出金制度を着実に運用する」(原子力小委事務局, 2023)との方向性が示されており、拠出された資金の今後の運用方法や方針については、不確実性を考慮した柔軟な対応が不可欠である。しかし、現行法の規定では、使用済燃料再処理・廃炉推進機構が将来の不確実性を考慮した積極的な資産運用を行うことは想定しづらい(稲村, 2024)。

 本特集号では、先行研究では深掘りされることが少なかったバックエンド事業の将来の不確実性に着目し、それを踏まえた資金管理についての諸外国の対応の特徴をとりまとめる。

3. 所収論文の注目ポイント

 本特集号の所収論文では、各国のバックエンド事業について、主に官民の役割分担や資金管理に着目し、大きく分けて以下の3つの項目について整理している。

 ① 原子力発電事業とバックエンド事業の概況

 ② バックエンド事業の責任主体等(費用負担、官民の役割分担を含む)

 ③ バックエンド事業のための資金管理

 このうち、主題となるのは、③の「バックエンド事業のための資金管理」であり、廃止措置費用がどのように見積もられているか、見積もられた資金を確保するためにどのような管理が行われているかについて整理する。具体的には、下記のような項目を明らかにする。

 ➢ 廃止措置のための資金の回収及び蓄積方法:廃止措置のために必要な資金を、どのような形式(電気料金、税金等)で回収しているのか、どのような形式(内部積立、外部基金等)で蓄積しているのか

 ➢ 資金不足の懸念への対処:蓄積された資金が廃止措置費用の見積もりに対して不足する場合、どのように対処しようとしているか

 ➢ 蓄積された資金(外部基金)の運用方針:将来の不確実性に対してどのように対処しようとしているか

3.1. 米国

 米国は、世界に先駆けて原子力の民生利用を進めてきた国の1つであり、世界最大の原子力発電利用国である。同時に、廃止措置が完了し、サイト解放に至っている原子炉が複数ある廃止措置大国でもある。

 稲村・堀尾(2025)は、米国のバックエンド事業のための資金管理について、事業者外部の分離勘定で、原子炉単位で管理する仕組みに着目し、規制当局による費用見積や基金の状況監視、将来の不確実性を踏まえた運用実態等について取りまとめた。

 米国では、バックエンド事業のための資金を管理する廃止措置信託基金が原子炉単位で設立され、事業者ではない外部の主体によって管理されている。廃止措置に必要な最低目標額は法令で規定されており、事業者は、2年ごとに最低目標額の見積もりを更新し、規制当局に報告しなければならない。規制当局は報告された費用見積と基金の状況を確認し、費用の上振れ等による資金不足の懸念がある場合には、事業者に適切な措置を取るように勧告する。資金確保の具体的なやり方については、ライセンス保有者に一定の自由度が与えられている。

 米国には、電力市場が規制下にある規制州と、自由化されている自由化州が混在しており、原子炉の所有者がどちらの市場で電力を販売しているかによって、バックエンド事業のための資金確保や規制当局による監視の状況にも差異がある点が特徴である。年次拠出を用いることができる原子炉(電力の販売先が規制州)については、操業停止時点での資金充足が見通せているかを規制当局は確認している。一方で、年次拠出を用いることができない原子炉(電力の販売先が自由化州)については、安全貯蔵期間の利益控除も踏まえて、廃止措置が完了するまでに資金が枯渇しないかを規制当局は確認している。

3.2. 英国

 英国の電気事業は、国営の電力会社の民営化や自由化といった段階を経ており、原子力発電を巡る事業環境整備等の観点から、日本にとって参考となる点が多い。

 稲村(2025)は、英国のバックエンド事業のための資金管理における官民の役割分担と、将来の不確実性への対処を取り上げた。

 英国には複数の炉型の原子力発電所が存在するが、ここでは、原子力事業が国営だった時期に建設され、その後、民営化の対象となった発電所に主に着目している。当該発電所の廃止措置及び廃棄物処分のための資金は、事業者からの一定の拠出金と政府の資金で構成される原子力債務基金(Nuclear Liabilities Fund:NLF)内に確保されている。NLFが不十分である場合には、政府が不足分を賄う責任を担い、事業者は追加拠出の責任を負わない。政府はNLFへの自発的拠出を行うことによって、予測されるNLFの不足分を積極的に管理することもできる。NLF自身も、納税者への負担(NLFの不足に対する政府からの補填額)を可能な限り減らすために、積極的な目標をもって資金を運用している。

3.3. スウェーデン

 スウェーデンは、2024年12月現在において高レベル放射性廃棄物(同国は再処理をしないため、使用済燃料を指す)の処分場選定が完了している、世界でも数少ない国の1つであり、処分場選定が完了したことによって、廃棄物処分に関連する将来の不確実性が低減した国としても注目される。

 佐藤・稲村(2025)は、スウェーデンのバックエンド事業のための資金管理について、事業者外部の分離勘定で資金を確保するとともに、その資金が政府の管理下に置かれるという仕組みに着目し、不確実性への対処や基金の運用実態等を分析した。

 スウェーデンでは、民営の事業者が原子力事業を実施しており、廃止措置の実施責任や資金確保の責任は、これらの事業者が負っている。廃止措置費用の見積もりは、事業者が共同で保有する会社(SKB)に委任されている。見積もりは、最新の事情の変化を反映するために3年ごとに実施され、国家債務局に提出することが求められている。

 バックエンド事業のための資金について、事業者は発電電力量に応じ、放射性廃棄物基金と呼ばれる政府管理の基金への拠出が求められている。基金への拠出額は、SKBから提出された費用見積をレビューした国家債務局の勧告に基づき政府が決定する。放射性廃棄物基金という名称にはなっているものの、廃止措置のために必要な費用も同基金によって賄われることになっている。早期閉鎖等により想定していた運転期間が短縮してしまった場合や、予期せぬ事情が発生した場合にそなえて、一定金額の「保証金」を事前に基金に拠出することも求められている。

3.4. フランス

 フランスは、欧州において原子力発電のシェアが最も高く、日本と同様に使用済燃料を再処理する方針を堅持している国である。国が全株式を保有する電力会社であるフランス電力株式会社(Électricité de France: EDF)によって原子力発電事業が運営されている点は日本とは異なるが、政府が深く関与する態様の一例として参考になる。

 服部(2025)は、バックエンド事業のための資金管理が、事業者内部の分離勘定で行われている仕組みに着目し、電力自由化に伴ってEDFの経営環境が厳しくなる中での同資産の現況等を分析した。

 フランスのバックエンド事業のための資金は、一部を除き、EDFが自社内部の分離勘定において、「専用資産」という形で確保することになっている。この専用資産は譲渡不可で、資金使途はバックエンド事業に限定されている。また、その資産価値は、現在価値換算した将来のバックエンド事業の総費用の水準を上回るように維持することが求められており、近年においても、専用資産の価値は必要な水準を上回って維持されている。ただし、政府がEDFの株式の100%を保有する国有企業となったことなどにも留意する必要がある。

4. おわりに

 各国のバックエンド事業のための資金管理の特徴を表3に示す。各国とも、バックエンド事業を適切に完了させるべく、費用見積の妥当性のレビューや、資金確保状況の確認を定期的に実施し、資金不足の懸念を可能な限り取り除くように努めている。バックエンド事業の資金をどう蓄積・管理していくかは、全ての国に共通した手法はなく、官民の役割分担の状況も様々である。また、目的外利用や事業者が破綻した際の資金回収不能のリスクを避けるため、米国とスウェーデンは、バックエンド事業のための資金管理の態様を内部一体型から外部分離型に移行した。2.2で述べた日本の制度改正も同様である。

 歴史的経緯や事業環境等の差異を踏まえれば、諸外国の事例はそのまま日本に適用できるものではない。しかし、日本のバックエンド事業の資金管理をより安定的なものとするために、諸外国の事例から学ぶべき点は多々あるだろう。その際に、本特集号が有益な材料となることを期待したい。当所では、引き続き、資金管理を中心にバックエンド事業に関する政策研究を進めつつ、本特集号では取り上げなかった再処理や特定放射性廃棄物処分にも分析の射程を広げていく予定である。

参考文献

    • 井口幸弘(2023)「バックエンドに関する技術開発の将来展開 1. 放射性廃棄物処理・処分および廃止措置の技術開発における現状と課題について」, 日本原子力学会誌, 65巻5号, pp.309-311, 2023.
    • 石倉武(2009)「21世紀の原子力発電所廃止措置の技術動向 第1回 廃止措置の世界の概況と我が国の現状」, 日本原子力学会誌, 51巻8号, pp.625-629, 2009.
    • 稲村智昌(2024)「英国における将来の原子力発電所の廃止措置及び廃棄物処分費用を巡る動向-将来の不確実性への対処を中心に-」, 電力中央研究所報告SE23001, 2024.
    • 稲村智昌・堀尾健太(2025)「米国における廃止措置信託基金の運用実態-廃止措置及び廃棄物処分事業の資金確保の枠組と充足の見通し-」, 電力経済研究No.70, pp.9-27, 2025.
    • 稲村智昌(2025)「英国の既設原子力発電所の廃止措置及び廃棄物処分のための資金管理-官民の役割分担と原子力債務基金の運用状況-」, 電力経済研究No.70, pp.28-41, 2025.
    • エネルギー総合工学研究所(2013)「平成24年度発電用原子炉等利用環境調査(海外における原子力政策等実態調査)調査報告書」, 2013.
    • 佐藤佳邦・稲村智昌(2025)「スウェーデンの放射性廃棄物基金(KAF)のリスク管理と基金運用実態」, 電力経済研究No.70, pp.42-57, 2025.
    • 総合資源エネルギー調査会基本政策分科会電力システム改革貫徹のための政策小委員会(2017)「電力システム改革貫徹のための政策小委員会 中間とりまとめ」, 2017.
    • 総合資源エネルギー調査会電力・ガス事業分科会原子力小委員会事務局(2022)「廃炉等円滑化ワーキンググループの設置について」, 第28回会合資料6, 2022.
    • 総合資源エネルギー調査会電力・ガス事業分科会原子力小委員会事務局(2023)「原子力政策に関する直近の動向と今後の取組」, 第36回会合資料1, 2023.
    • 総合資源エネルギー調査会電力・ガス事業分科会電気料金審査専門小委員会廃炉に係る会計制度検証ワーキンググループ(2015)「原発依存度低減に向けて廃炉を円滑に進めるための会計関連制度について」, 2015.
    • 総合資源エネルギー調査会電力・ガス事業分科会原子力小委員会廃炉等円滑化ワーキンググループ(2022a)「中間報告概要」, 2022.
    • 総合資源エネルギー調査会電力・ガス事業分科会原子力小委員会廃炉等円滑化ワーキンググループ(2022b)「中間報告」, 2022.
    • 服部徹(2025)「フランスにおける「専用資産」による原子力発電所の廃止措置・廃棄物処分のための資金管理」, 電力経済研究No.70, pp.58-68, 2025.
    • 三菱総合研究所(2020)「令和元年度原子力の利用状況等に係る調査(国内外の廃止措置の規制に関する調査)調査報告書」, 2020.
    • OECD Nuclear Energy Agency (2016). “Costs of Decommissioning Nuclear Power Plants”, 2016.
    • OECD Nuclear Energy Agency (2021). “Ensuring the Adequacy of Funding Arrangements for Decommissioning and Radioac-tive Waste Management”, 2021.
  • 1)使用済燃料を再処理した際に生じる放射能レベルの高い廃液をガラス固化した廃棄物を指す。
  • 2)Trans-Uranicの略称である。TRU廃棄物は、半減期の長い超ウラン元素含有廃棄物を指す。
  • 3)英国において開発・実用化された炉であり、英国の原子力発電利用初期を支えた炉型であるが、2024年12月現在では、英国でも同炉型の炉は全て運転終了している。
  • 4)浜岡原子力発電所1号機及び2号機の廃止措置計画では、2024年度から第3段階の「原子炉領域解体撤去」に移行することになっていた。原子力規制委員会に対して、第3段階に移行するための廃止措置計画変更認可申請が2024年3月14日になされている(2024年7月26日に一部補正申請)が、2024年12月現在において未認可という状況である。
  • 5)ここで注意すべきは、廃棄物処分費用の範囲である。再処理をしない諸外国では、使用済燃料が日本の高レベル放射性廃棄物に相当し、その処分場の選定等が実施されている事例が多く、その結果として、廃棄物処分費用に使用済燃料の処分費用が含まれている場合もある。しかし、第1章で述べたように、本特集号の射程は、廃止措置及び廃棄物処分事業にあり、基本的には、特定放射性廃棄物処分は分析の対象外としている。特定放射性廃棄物処分に関する検討のために、諸外国の調査項目を設定したのではないことをここに注記する。
  • 6)低レベル放射性廃棄物は、放射能レベルの高さによって、L1、L2、L3に分類される(放射能レベルは、L1>L2>L3)。
  • 7)従来、解体引当金は、貸借対照表に負債として計上されてきたが、廃止措置という使途に限定されたキャッシュが確保されていることを担保する仕組みではなかった(廃炉WG, 2022b)ところ、本改正はこれに応えるものである。
  • 8)再処理事業に必要な資金を事業者に拠出することを義務付けたことから、再処理等拠出金法とも呼ばれる。
  • 9)令和5年4月28日原子力関係閣僚会議「今後の原子力政策の方向性と行動指針」においても、廃炉拠出金制度における拠出金額について、「将来の不確実性も踏まえた水準」とするとの方針が示されている。

稲村 智昌Tomoaki Inamura
電力中央研究所 社会経済研究所

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