電力経済研究
「電力経済研究」は電気事業、電力産業に関わる社会経済・制度問題を対象分野とし、課題指向型、問題解決型に関連した研究成果などを掲載し、学術の振興に寄与することを目的とした雑誌です。69号より冊子版からオンラインジャーナルへ移行しました。
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(オンライン)ISSN 2758-5980
(冊子版)ISSN 2189-3284
電力経済研究
No.70(2025年2月)
特集「原子力発電所の廃止措置及び廃棄物処分のための資金をどう確保していくか」
特集のねらい
安定供給に資する脱炭素電源として、世界的に原子力発電の役割が見直され、日本を含め、新増設やリプレース(建て替え)に向けた動きを示している国が増えてきている。一方で、今後の原子力発電の利用動向に関わらず完遂しなければならないのが、原子力発電所の廃止措置と廃棄物処分である。
廃止措置に関連する国内の注目すべき動きとして、2023 年の法改正によって、使用済燃料再処理機構(改正前)の業務として、新たに、廃止措置に必要な資金の管理業務等が追加され、「使用済燃料再処理・廃炉推進機構」(NuRO)と名称が改められたことが挙げられる。原子力発電所の運転事業者は、NuRO に対して、「廃炉拠出金」を拠出することが義務付けられることとなった。
廃止措置及び廃棄物処分は長期間にわたる事業のため、制度の設計・運用によっては、発電による受益を一切受けていない将来世代が、負担のみを負わされる可能性がある。こうした世代間の不公平を回避するためにも、原則的には、操業停止前に、廃止措置及び廃棄物処分を完遂するための資金確保の見通しが示されるべきである。一方で、事業者の財務の健全性を損なう事態を招かないように留意する必要もある。したがって、どの時点でどの程度の資金を確保すべきか、廃止措置及び廃棄物処分を完遂するために関連各主体がどのような役割を担うべきか等を考慮した制度の設計・運用が必要となる。加えて、確保された資金が、インフレ等の不確実性に対処しうる目標をもって運用されなければ、円滑な廃止措置及び廃棄物処分の遂行に必要な拠出額が増加の一途を辿ることになりかねない。
電力中央研究所 社会経済研究所では、原子力発電の事業環境整備に関連する国内外の事例を調査・分析してきた。本特集号は、米国、英国、スウェーデン、フランスを取り上げ、原子力発電所の廃止措置及び廃棄物処分の資金を確保するために、各国がどのような制度的枠組みを構築しているか、官民でどのような役割分担をしているか等を中心に調査・分析した結果をとりまとめた。本特集号が、日本において原子力発電所の廃止措置及び廃棄物処分を完遂するための資金管理をより良いものとするための参考となれば幸いである。
2025年2月
編集責任者
電力中央研究所 社会経済研究所
稲村 智昌
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