原子力技術研究所 放射線安全研究センター

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線量率効果の研究が新たな展開へ
−低線量放射線研究成果発表会総合討論から−


 平成16年12月13日(月)、電力中央研究所狛江地区で開催した低線量放射線研究成果発表会「線量率効果を考える」において、多くのご参加の方々(総数112名)を交えた総合討論を行い、活発な議論が交わされました。主な議論のやり取りをご紹介します。

【疫学研究と線量率効果について】

(酒井)疫学研究は人間に関する情報という点で重要だが、線量率効果という観点からはどのような意義があるか?
(秋葉)高自然放射線地域の疫学研究から言えることは、わずかな量の放射線であれば大きな影響はなさそうだということである。考えてみれば、さまざまな影響要因について微量であれば害がないというのが普通であって、放射線がどんなに微量であっても有害だとする考えはどちらかというと例外的ではないか。放射線作業者などに関しても微量放射線の影響が議論されているが、疫学研究からはわずかな放射線でははっきりと検出できるような影響はないという情報を提供することができると思う。
(三根)原爆影響の調査に関しては線量率効果という観点からの分析は行われていない。低い線量域のデータを、数理学的なモデルに当てはめるのではなく、あるがままに見るという方針で分析すると、低い線量のところではリスクの増加は認められない。



(会場A)原爆の影響は高線量率1回被ばくなので、これだけで線量率効果を議論することはできない。他の放射線作業者あるいは核実験場近くの住民の健康影響調査など、反復被ばく・長時間被ばくの場合と比較しなければならない。
(会場B)人間はそもそも様々な発がん要因にさらされており、このようなバックグラウンドの上でわずかな量の放射線の影響を検出しようというのは非常に困難である。また、男女差などの要因によっても大きく左右される。さらに、高自然放射線地域では、集団としてまだ寿命が延びる余地があると思われる。
(会場C)トリウムを含んだ造影剤を投与された集団や、ラジウムを含む蛍光塗料の塗布作業にたずさわった集団などを対象とした調査結果から、低線量率長期被ばくに関する貴重なデータが得られている。これによると、発がんに関して2Gyあるいは10Gyというしきい値が示されている。

【線量率効果の機構について】

(酒井)線量率効果の背景にはどのような機構があると考えられるか?
(法村)DNA修復能力が重要であろう。ただし、生体の防御機能全体から見れば、DNA修復に加えて、異常な細胞を除去するアポトーシスによる損傷細胞排除機構の寄与も大きいと考えられる。アポトーシス抵抗性の細胞が存在すると考えられているマウスの精原細胞(生殖細胞のうち精子を作る初期の細胞)に照射した場合には、線量率をいくら下げても突然変異率がある程度以下には下がらないという古典的な実験データがある。
(馬替)われわれの結果では、短時間の照射の場合には修復機能に欠陥のある細胞では線量率効果は見られないが、非常に低い線量率で長期間にわたる照射の場合には、修復機能に欠陥のあるとされる細胞であっても線量率効果を示す。このことは、DNA修復能力に加えて、細胞の増殖の制御やアポトーシスによる細胞の除去なども線量率効果に関与していることを示すものと考えている。

【線量率効果としきい値について】

(酒井)同じ総線量の照射であっても、高線量率では障害が見られるが、線量率を下げるに従って障害の程度が小さくなり、しきい値が見えてくることがある。
(馬替)しきい値を 「これ以下であればリスクがゼロである値 」と定義すると、障害が全くないことはあり得ないので、生物学的にはしきい値はないと思う。また、疫学調査は統計である以上精度が低く、疫学的データからしきい値の有無は見出せない。低線量・低線量率の影響を考えるときには 「しきい値 」という言葉自体を見直す必要があるのではないか。
(会場D)「しきい値がない 」という表現は誤解を与えかねないと思う。集団としてみれば、しきい値がないように見える場合があるかもしれないが、生物に防御機能が備わっていることを考えれば、それぞれの個体(個人)については、程度の差はあれ、しきい値は存在するはずだ。
(酒井)生物学的に個々の生物影響を考えるか、集団として放射線防護的な立場で考えるかの違いであろう。



【総合討論のまとめ】

 「線量率効果」は、 「単位時間当たりの線量が低くなれば影響の程度が小さくなる 」という単純な命題がきっかけであったが、線量率効果について踏み込んで研究を進めていくうちに、生命現象の本質に関わる問題であることが明らかになりつつある。当センターにおいて、これまでに得られている様々な知見を取りまとめた「線量・線量率マップ」によれば、放射線の影響が線量率に大きく依存することがはっきりとわかる。また、放射線の生物影響の様子が「しきい値なし直線仮説」が示すものとは異なることも明らかである。生物実験研究と疫学調査研究を結びつけて、広い線量率の範囲で放射線影響を理解することが今後の課題となる。

当センターが取りまとめた「線量・線量率マップ」

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